The対談 ~もう駄目だと思ったらどうするか? 4
●情報は身を助ける
牧野:借金がどんなに膨らんでも自己破産ができるとか、命までは取られなとかは、自己破産っていう制度を知ってるかどうかっていうのもあるでしょう?だから、情報を収集って大事。住宅ローンを苦にして自殺するっていうのは、ちょっとショッキングです。不動産を買うとき、返済計画ってすごく重要でしょう。銀行もやってくれるし、最近では自分でもネットとかパソコンがあれば計算できる。2000万で自殺する人は、どんな返済計画だったんだろう?
坂口:6年目から突然給料が上がるって計算してるとするでしょ。毎年2%ぐらい上がるっていうのを前提で計算したら、おかしくなるでしょうね。「もう駄目だと思ったとき」は、まず因数分解をしてみて、これ駄目だったらこういうような方法が最後あるっていうのをまず知るっていうのが重要ですよね。
借金の場合、自己破産ができるだとか、あるいは完全にリセットして、探そうと思えば、どんな家賃の金額でもあるわけですから、そこからやり直すっていう方法もあるんじゃないかという点。仕事でいうと、すごい小さなところが自分の思い通りにいかなかったときは、それは何か違う方法でバックアップするっていうことになるんですか。
牧野:さっき重点管理でいうと、大きなサプライヤを持っている人と、そうじゃない小さなところしか持っていない人でも、まず自分の持っているサプライヤでABC分析をしていたら、そうはならなかったと思うんですよね。
坂口:マネージャーからするとまったく成果が出てない。でも、社員から「いや、今は結果が出ないんですけども、自分なりにこういうふうな施策を立ててやってきました。一応自分なりにこういうふうな戦略を立てて、この範囲では、おそらくこれ以上はできないはずです」ぐらいのことを言ってくれたらもういいわけでしょう。
島田紳助さんは若手ほど情熱が必要だっていうんですよ。ただ本当に情熱が必要だとは思ってない。例えばベテランの漫才師が「ここまで来るときにね、道に1万円札が落ちてましたんや」と言ったら、みんな信じる。若手が「さっき1万円落ちてましたよ」って言ったら誰も信じてくれない。そのときに情熱が必要なんだと。「いや、マジで落ちてたんです、ほんとに落ちてて、みなさん、信じてください」と言ったら、「そこまで言うんだったら、ちょっと話をきいたろか」になる。相手を無理やり納得させるためだけに情熱が必要、嘘でもいいから情熱的に話せというんですよ。
これはなかなか面白いなと。これまで情熱って自分自身を燃え滾らせるために使っていたじゃないですか。だけど、紳助さんは自分はどうでもいいから、他人を説得するために偽悪的でもいいから使うんだというのが、すげえ面白いなと思ったんですね。それと、自分の職務範囲でできないと分かったら、直ちに上司に投げるっていうことになるんですか。
牧野:相談するんです。「どうしたらいいですか?」って聞くこと。重要なのは、自分でも解決策を考えておくこと。ただ、最近は上司も忙しいですからね。でも、何か問題を起こしたりとか、サプライヤとの間に何か禍根を残すような状況があるんだったら、相談したほうがいい。
●望まない仕事をやるときは
坂口:2つ目の環境変化は、ひたすら環境対応のデータを集めるだとか、裏方のイベントの運営をずっとやらせる場合、本当に望んでいなかった調達の、さらに自分が望んでいなかったような仕事をさせられている。与えられた仕事が、しんどすぎる。その場合はどうしたらいいんですかね。
牧野:ある程度、耐え忍ぶことは必要。今は「耐えなくていいじゃん」って人もいる。でも、耐えるのって能力だし、持ってたほうがいいと思います。ただ、耐え忍ぶ状況が続いたときに、別の道を自分で探せるかどうかですね。
坂口:部長の冒頭の挨拶を書いたり、お客さんを誘導するときのパワーポイントを作ったりする仕事。本当にくだらない仕事をやっているやつが隣にいるなって思ったんだけども、今考えると、「ああいうデータが今あったら、それ、ワンセットにして売れるのに」とか思うんですよ。(笑)まあ、コンサルティングなんてやっていますからね。全国のそんなノウハウのない人たちに対して、一例でいうと、調達方針説明会の発表セットとか、ここにこういうデータを入れたら完成しますとか言ったら絶対に売れるでしょう?
牧野:いいですね、それ。確かに面白そう。
坂口:だから、「ほんとしょうもない」と思ったんだけど、観点を少し変えただけで、ノウハウの塊を俺はスルーしてたと思うんです。だから、そんな仕事にも、すごい事細かなノウハウって詰まってると思う。実際、例えばイベントでどういう順番で内容を並べるのかとか、何分前に受け付けは何をするかとか、やってる側は、ほんとに何をやってるんだろうと思うんですけど、俺みたいな仕事に突然変わったときに「うわぁ、超ノウハウがほしかった」みたいな。
でも、かといって、「じゃあ、外部に売ることを意識して仕事をしろ」っていう意味でもないんですよね。ちょっと注意が必要なんですけども、ほんとに見方を変えたら自分のやってること1つ1つが、ノウハウになって本になるというのを、会社員があまりにも無自覚すぎるという話ですよね。
●スキーと海外出張の共通点
牧野:で、2つ目の例で、環境が変化するっていうのは、本人だけじゃちょっと限界があるんですよね。
坂口:ちょっと固有名詞は言えないんですけども、明らかに社員の精神が疲労するような配置をするところはありますものね。有名な電機メーカーで、社員にくだらない仕事ばっかりさせてたら、誰だって精神を病みますからね。それは確かにおっしゃる通りですよ。
牧野:だから私は、初めて海外出張に行く人と一緒のときは、本当に神経を使うんですね。将来、その人だけで海外に出てもらわなきゃいけない、ひとりで。
坂口:なるほど。ということは見極める?
牧野:そう、見極める。ほんとにこの人大丈夫かなって。ところで、スキーって好きになる人の傾向があるって……
坂口:どういう傾向があるんですか?
牧野:初めて行ったスキー場のレベルと天気でスキーを好きになるかどうかが決まる。
坂口:なるほどね。ファーストインプレッションですね。
牧野:最初に行ったスキー場は、上級者からすると、全然面白くないなだらかなスキー場であったとしても、初心者がそこで何とか滑れて、天気もよかったら、スキーのことを大好きになるんです。
坂口:初日にそれだとしたら、2日目が雨でも「あー、前に楽しかった」ことを思い出して、またやってみて晴れの日だったらまた「楽しいな」みたいな。
牧野:そうです。だから、最初に教えてもらおうなんて思って上級者と一緒に行って、とんでもなく難しいコースに連れていかれて、天気が悪かったりすると「もう二度とスキーに行くか」となるわけです。海外出張も同じで、最初の海外出張で変な思いをさせないっていうのは、すごく重要だと思うんです。
坂口:なるほど。まったく違う例かもしれないけど、僕はRCサクセッションが大好きなんです。たまたま流れてきてたのが「雨上がりの夜空に」だったんですよ。その曲がいいなと思って聴き始めると、なんかほかの曲もよく感じるじゃないですか。マニアックな曲を最初から聴いたら、よう分からないバンドだなと思って聴かなかったと思うんです。最初に何の曲に出会うかが、影響する。漫画もそうです。たまたまこれはメッチャ面白いやんってなったら、ほかのやつも読みますもんね。小説もそう。
で、話を戻すと、組織編としては、その新しい環境変化に伴って受け入れる人がいたら、その受け入れる人の一発目の仕事をいかに喜びをもって「あ、これは面白いな」と思わせるように周囲がサポートするかってことですね。
牧野:面白いと思わなくても問題なくやれた。最初の成功体験、失敗しなかった体験ってすごく大きいと思う。
坂口:調達部門に限らない話かとは思うんですけども、まず受け入れたときの一発目の仕事を「いや、面白いやろ、これ」と周りと共有できたら、なんとなくやっていけるかも分からないですね。
牧野:その積み重ねが重要だと思いますよね。(終了)