3-(3)-2 ERP「私の経験」
「こんなのどこに置くんだ!」
一つの電話で青ざめたことがあります。電話は、製品の受入れ検査担当者からでした。その受入れ担当者は、ある製品が千個も納入されたことを私に告げました。製品は、一つ5,000円もするオプト部品でした。
私は「その千個はちょっと前に納入されたはずじゃなかったのですか?」と訊いてみました。以前、その製品の千個を発注した記憶はありましたが、記憶ではもうその千個はだいぶ前に納入されているはずでした。
「いや、あの千個じゃない」と担当者。
「しかし、そんな多量の発注は覚えがありません」と私は言いながら、冷や汗が出てきていました。
「お前が覚えていなくても、実際千個は納入されている。こんなのどこに置くんだ!」
私は訳がわからないまま「すみません」と謝るのがやっとでした。
実は、その当時、私の会社ではERPのパッケージソフトを導入している真っ最中で、類似のトラブルが毎日のように起きていたのです。
「手書きの発注書とオサラバできる。これからはシステムで発注が可能だ。空いた時間はもっと有効に使えるだろう」と導入担当者は語っていました。これを導入すると、発注が簡略化でき、しかもそれが社内の生産計画とリンクしているということで、導入前は非常に期待感をもって迎えられました。
中長期の生産計画を把握し、在庫量から調べ、その製品ロットに応じた注文書が随時発行される仕組みでした。一旦価格とロット数量を決めてしまえば、あとの手間はかからない。業務効率化を狙ったものでした。
しかし、導入されると莫大な登録時間が要されてゆきました。半導体部品など、基板搭載部品はただでさえ多量な種類があります。しかも、以前登録された海のものとも山のものとも分からない部品群。
ロットを登録しようとすると、「これはリール品だからこの単位では購入できない」とサプライヤーから指摘されました。と思えば、「1個単位で購入するのはかまわないが、それによって搬送が煩雑になってしまう。それは受入れ検査時に混乱しないか」といった意見や質問が次々に出されました。
おまけに調達部門からも、「これじゃぁ紙の伝票の頃がよかったな」という素直な感想まで出る始末。
私が前述したトラブルもこのような導入初期段階で生じました。最小ロットは10個なのですが、1,000個まとめ発注での交渉を実施した部品があったのです。しかし、ERPでは工程に合わせて10個単位での発注が出るだけで、1,000個同時に発注がかかることはできませんでした。
そこで私は、その部品のデータベース上の最小ロットを1,000個に変更したわけです。 すると当然注文書は1,000個になり、大幅なコスト低減が可能でした。私も大きな成果を得ることができていたのです。
しかし、私はそのすぐあとに「7個だけ必要」な案件があるとまでは知りませんでした。 いや、ERPを導入するということは、そういう案件があることすら知る必要はないのかもしれません。処理は自動的に実施してくれるはずですから。
早い話が、7個しか必要でないはずのその部品が1000個発注されることになってしまったのです。そこからは前述の通りです。
ERPで自動的に発注されたとはいえ、当時の私はこっぴどく怒られました。993個×5,000円ですから約5百万円を無駄にしてしまったので当然ではありましたが。
そこから連日のように商社や知り合いのブローカーに電話をして、なんとかその部品を引き取ってくれるように頼みまくりました。なんとか売れたのですが、合計で30万円ほどにしかならず、私がERPに対して持つ印象は「最悪」からスタートしたのでした。