「交渉論」(牧野直哉)
私が考える交渉に関する根源的な問いは次の3つです。
1つ目は、交渉は必ず行うものでなく、やむを得ず行うものとの考え方です。これまで私自身が調達・購買の現場でバイヤ業務を行い、最近でも現場で調達・購買業務と格闘するバイヤのみなさんとコミュニケーションしてきました。そのような中で強く印象に残っているのは、多くのバイヤは自分の仕事の中心にサプライヤとの交渉を置いている点です。
確かに周囲から見れば非常に心強いバイヤ像と写るはずです。私もできればそのようなバイヤを目指したかった。残念ながら私自身、交渉「だけ」で自社に有利な購入条件獲得はできませんでした。交渉に至るまでの条件設定と、交渉とは呼べないこまごました内容について、サプライヤ相手だけではなく、社内関連部門と行う調整によって初めて希望する購入条件が実現できていました。
「交渉」とは、交渉相手であるサプライヤを目の前にして主張するだけではなく、そこに至るまでのひとつひとつの準備が、購入条件の良しあしに影響するのです。
2つ目のポイントは、交渉の雌雄は準備が決するとの点です。1つ目のサプライヤだけではなく社内関連部門と、細々した内容について行う調整とは、私にとって交渉というよりも準備と呼べる取り組みでした。十分な準備ができていれば、希望通りの内容で合意できる可能性は高まりますし、何より大きく失敗する可能性が極めて低くなります。もちろんゼロではありませんが「交渉不調」となってしまった場合も、再び交渉行う場合も極めて有利な展開が実現できました。
3つ目のポイントは、交渉行う「対象」について。私も多くの交渉は購入する「価格」について行っていました。しかし、購入の都度「価格交渉」を行うよりも、価格の「決まり方」についてじっくり交渉する方が、後々の発生工数を考えるとバイヤとサプライヤ双方の効率が高まります。重要なポイントは、いったん決まっても定期的に価格の決まり方の見直しが欠かせない点です。サプライヤから合意した価格の決定方法について見直しの要請がない場合、合意した価格決定方法がサプライヤにとって都合が良い状態かもしれません。そういった疑心暗鬼をなくすためにも、定期的に価格決定方法のチェックを行うべきです。価格決定方法を交渉し、日常的な購入では価格決定方法に沿った価格を見積書に記載してもらって、見積書通りに注文書を発行する。定期的に価格決定方法の見直しを行う。2つをセットで行えば、都度価格交渉をするよりもかなり効率的な価格決定が可能になるはずです。