バカで仕事ができず、すぐ辞める後輩であっても教育すべき理由(坂口孝則)
タイトルはストレートに、「バカで仕事ができず、すぐ辞める後輩であっても教育すべき理由」です。このところ、パワハラが話題になっているものの、仕事もできないくせに権利ばかりをふりかざし、一人前にもなっていないくせに学ぶこともメモを取ることもできない若手社員に頭を痛めている読者は多いですよね(当社調べ)。そのような若手社員を見ると、会社側に同情したくなるほどです。ご愁傷様です。
しかし、どんなバカで仕事ができない後輩であっても、かつ、彼や彼女がすぐに辞めてしまうとしても、やはり教育せねばなりません。
それは、別に社会的責任だとか、倫理だとか、あるいは会社とはそういうもんだという諦観でもありません。ここで一つ、私の昔話をさせてください。
私は、この経験があるから、どんなひとであっても、自分より経験が少ないひとには指導せねばならないと思いました。その思い出とは、私が新人のときに出会った先輩との対話です。
そのひとの発言は衝撃的でした。というのも、「教育した社員が辞めてもいいじゃないか。だって、オレが徹底的に教育をして辞めるんだったら、死ぬまでオレのことを忘れないだろう」と。金銭的な報酬があるわけでじゃない
けれど、その社員のなかで(たとえ会社は異なっても)自分自身が生き続けるから、それは素晴らしいことだ、と。
こういう考えもあるのかと驚きました。
さらに「そうやって教育を熱心にした若者が辞めるとする。そうすると、どこにいっても、オレのことをちゃんと接してくれるだろう。それが無形財産だ。辞めてからだよ、勝負は」といったことをおっしゃっていたのです。た
しかに、私が辞めてから、そのひとへの恩返しがはじまりました。
おそらくこの先輩は直感的に話したのだと思います。しかし、その10年を経て、なるほどその先輩の発言は「会計的、経営的にも正しいことをいっていたのだ」と気づきました。
どういうことか。つまり、それは税金のかからない資産だということです。人材や人望といったもの。本来なら、それは貸借対照表に載せるべきものです。しかし、現在の会計制度では、企業運営にきわめて大切なそれらを、載
せられません。したがって、税金がかかりません。これはすごいことです。ということは、賢者の戦略は、税金がかかるところ(通常の意味での儲け)を追求するものの、同時に、税金のかからないところ(無形財産)を増やし、その両者のバランスを取る必要があります。
だから、利益が一定以上をこえたら、そこはどんどん無形財産を増やす方向で進むのが正しい経営戦略なのです。
教育を施す、そして本人が辞めたらおしまい、と短期思考では、たしかに資産とはなりえません。ただ、彼や彼女の長い人生をとらえたうえで、その一部を担うと考えれば、イメージが異なります。国が税金をどんどんとるので、ビジネスパーソンである私たちは、税金をかけてこない価値を最大化するのが正しいわけですね。そう考えると、「うーん、騙されているみたいだけど、そうだな、教育はちゃんとやってみるか」と思っちゃいませんか。いやいや、ほんとうに。