決算書の見方講座が役に立たず有害な理由(坂口孝則)
世の中には「決算書の読み方講座」といった類のセミナーがあります。私も若い頃に受けたことがあるのですが、実際の会社経営をするまで、実感としてほとんど理解できませんでした。たとえば、サプライヤの状態を知るために決算書を見るのですが、それでも実態がわかった気がしませんでした。
なぜか。私ものちのちやっとわかったのですが、世の中の「決算書の読み方講座」といった類のセミナーは、ほとんど「上場企業の決算書の読み解き方」セミナーなのです。しかし、みなさんの多くが付き合っているサプライヤは非上場企業なはずです。ここに大きな乖離があります。
もっといってしまいます。上場企業の決算書は、外部に対する成績発表なのです。しかし、非上場企業の決算書は、単に税金の計算書でしかありません。その二つはほとんど異なるものだと考えてよいほどです。たとえば、負債の危険度についても、利益の水準についても、上場企業と非上場企業では、まったく異なる見方をせねばなりません。日本はその多くが赤字法人だといわれています。しかし上場企業はそもそも意図的な赤字が許されません。
しかし、もっと重要な点は、中小企業の実態が決算書から見られないことです。たとえば決算書を見て、売上高と利益水準がほぼ前年同一であれば問題ないとみなすでしょう。しかし実際ほとんどの中小企業で問題となっているのは、単価が下がることではなく、工数が増大することです。みなさんも見に覚えがないでしょうか。発注額はさほど変わらなくても、さまざまな調査をサプライヤに依頼していませんか?
単価が下がることが中小企業を追い詰めていると考えがちですが、意外にそんなことはありません。しかし、要求や作業が増えて、工数が足らず、見えない重圧が社員圧迫することは「よくあります」。だから決算書だけを見て中小企業を判断しようというのは、あまりに危険な態度なのです。
決算書は変わりません。しかし、実質的なコストは上昇してしまっているのです。そしてそれがQCDの低下につながります。それをどうやって防ぐか。地道な愚直な当たり前のことしかありません。決算書や数字だけではなく、現場で「感じる」しかない。
いつか真の、サプライヤ決算書の見方、というセミナーでもしようかと思うこのごろです。