調達部の戦略が貧しい本質的理由(坂口孝則)

20代のころから、私は調達業務関連の情報発信を続けています。すると、「お前、面白いじゃないか」と、いろいろな人たちと会う機会に恵まれました。社長さんや、大企業の役員など、通常なら会えない人たちばかりでした。

流れで、そのまま食事に行くのですが、そのときに「これから調達の仕事というのは、こういう理想を実現しないといけないと思うんだよ」とか「社会がこうなっていくはずで、調達っていうのは適応するために、こんな戦略を持つ必要があるんだよね」などと、夢や希望を聞かされて大変に感心したものです。

しかし、そのときに私は「偉い人は、こういうことを考える必要があるんだな」と思うくらいでした。ただ、それは間違っていたようです。そこから20年が経ちますが、いまでは、そんなに大きな話はあまり聞こえてきません。当時、若かった人たちは、現在では、私が出会った役員くらいの年齢になっています。夢や希望を語る人はめっきりいなくなりました。現在の若い人たちからは、さらに現実的な話しか聞かされません。

ちょっと難しい話をします。以前は、「目の前の業務」「企業や世界」「遠い未来」という3層構造だったところ、いまは、「目の前の業務」「遠い未来」の2層しか存在していません。あまりに近い話と、あまりに遠い話にしか興味がないのです。だから、目の前の細かな仕事の困りごとと、あるいは、何十年も先の老後の話などにしか、みんなが興味を持たなくなりました。

老後のことよりも、自分が属している企業の現在だとか、全体像について興味を持てよ、と思います。自社全体の活動について関心を持つ若手はどんどん少なくなって、自分の仕事だけをこなすだけ。全体の進むべき道を考えようともしない。

しかし、これはしかたがありません。若手はずっと「いつまで会社があるかわからない」「個人で生き残れ」とかいった言説を聞いて育ったのです。いまさら、会社とか組織に興味を持て、といわれても困るだけでしょう。

これを思想史的に難しくいえば、「右肩上がりの成長という大きな物語が終焉し、ポストモダンが到来したため、個人は自分にしか興味をもてず総オタク化していった」と書けるでしょう。ただ、難しい話はここでやめておきます。今日のタイトルは「調達部の戦略が貧しい本質的理由」としましたが、その理由とは「そもそも自社や世界に興味の持てない、調達部員が豊かな戦略を構築できるはずはない」となります。

いや、ほんとに昔は大局から語ってくれる上司がたくさんいたんですよ。

ところで、誤解している人が多いと思います。昔は良かった、今はダメだ、という主張ではありません。なぜなら、明らかに若手のほうが優秀だと思いませんか? 自分のスキルアップに熱心なので当然かもしれません。私は「目の前の業務」「企業や世界」「遠い未来」のなかで、消えた中間の「企業や世界」の関心を復活させることです。

日経新聞でもっとも読まれていないページは国際欄らしいですね。やっぱり、世界なんて興味ないんですよ。

新型コロナウィルスは、企業の活動をめちゃくちゃに破壊しました。いまこそ、自社の全体像と世界の情勢を把握しつつ、調達戦略を構築すべきときです。その意味でも中間の「企業や世界」の関心を復活させるべきと思うんです。

「企業や世界」の関心といっても、大層なことではありません。

文字通り、
・自社は部門と部門がどう有機的につながっているのか
・さらに自社と世界はどうつながっているのか
・世界で何が起きているのか
・現在の事象で自社にどのような影響があるのか
・将来、自分の業務はどう変わりそうか
こういうことを、部門で、部員に考えてもらうきっかけを与えることです。地道な啓蒙活動かもしれません。でも、自社と世界に関心を持つことからしか、豊かな調達戦略は生まれないのです。

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