なぜ退屈な工場ほど儲かっているのか(坂口孝則)

だいぶ昔なのですが、某社から集合研修の依頼がありました。製造業です。その会社の社長は、メディアに多く出演するひとで、私はその社長から、ある種の「哲学」を感じていました。集合研修当日には、工場見学もさせてくれました。

もちろん私ごときに社長がご同席なさったわけではありません。ただ、社内に脈々と思想は伝播しています。そのときに、「工場の理念」を訊いてみました。私にしては、えらく曖昧な質問です。

答えが傑作でした。

「退屈な工場です」というもの。華やかな工場は、さわがしく、いろいろなものを運んだり作ったり活気にあふれているように見えます。しかし、まったく儲かっていない。作業者が淡々とこなして、移動も最小限であれば、退屈に見える。でも、それこそ儲かる工場なのだ、と。

「退屈な男」というのは、男性に対する侮蔑の表現でしょう。しかし、もっとも堅実な男かもしれません。ここでは究極的に堅実が良いかといった面倒な議論はやめておきます。派手さはありません。雑誌に取り上げられることはないかもしれません。ただ、工場は地味で退屈でなのが、もっとも堅実で目指すべきもの、というわけです。

それと、海外支社や海外生産拠点をお持ちの会社にお勤めのみなさん、驚愕することを聞きました。

これは、別の方から聞いた話なのですが、日本企業のもつ海外支社や海外拠点は、「見えない赤字」があまりに多いというものです。これも、派手さではなく、堅実が良いという話です。

どういう話かというと、多くの日本企業は会計的に正しい処理をしていないというのです。海外拠点のために、日本のスタッフが出張したり、仕事をしたりしています。そのとき、そのコストは海外に計上すべきなのに、多くは日本側の費用として処理されてます。会計の細かな処理は省略します。ただ、問題は、海外のコストが低く見られている、というわけです。

そうすると、海外では華やかに成功している企業も、厳密にコストを計算すると赤字に転落するというわけです。見た目は、さまざまな出張者がやってきて、ゴルフとか接待漬けになっているわけです。実態が伴っていない。

しかし、いっぽうで儲かっている現地企業は、地味で粛々と仕事をこなしているといいます。日本からの出張者もさほどではなく、退屈な感じが漂う、と。なかなか考えさせられる話ではあります。

ところで、みなさんの会社は、海外拠点のための業務は、ちゃんと日本側ではなく、海外側のコストとして利益計算できているでしょうか。

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