ロックバンドと調達・購買業務について(坂口孝則)
私はけっこうな音楽マニアです。クラシックからデスメタルまで聴きます。古いロックも聴きます。私が好きなのは、シーナアンドロケッツのエピソードです。九州の方はご存知かもしれませんが、いわゆる、めんたいロックの流れをつくったバンドです。ある日、シーナアンドロケッツが参加したライブで、とんでもないことが起きました。
シーナアンドロケッツの前に出たバンドの音量があまりにうるさかったために、近隣から苦情が出ました。主催者はなんと、それに屈してしまい、シーナアンドロケッツは、たったの一曲しか演奏できないと決まりました。ファンが暴動寸前のなか、ギタリストの鮎川誠さんは、「じゃ、一曲だけ」と演奏をはじめました。その一曲を、なんと45分も続けたのです! 聴衆は大喝采したといいます。
不利な状況を嘆くのではなく、それを逆手にとって、むしろ利用する、という試み。逆境を乗り越える、とはよく聞く表現です。しかし、逆境を利用する、とは凄い考え方ではないでしょうか。
以前、外資系企業の調達・購買部門で、このような話を聞いたことがあります。その当時、サプライヤ選定は、CSRの観点から、反社会的勢力(反社会的サプライヤ)を除かねばなりませんでした。調査項目は多岐に渡ります。反社の関係者がいないか調べねばなりません。大変な作業量です。しかし、その部門は、むしろそれを好機ととらえ、全社的にアナウンスしました。
「これからは、かならず調達・購買部門を通してサプライヤ選定をすること。勝手にサプライヤを選んでしまった場合は、その者の責任ゆえに、懲戒免職もありうる」と。つまり、面倒な調査を逆手にとって、社内地位を向上させようとしていた。いや、もっといえば、社内権力闘争の道具として「活用」したというのです!
このところ、誰からも、社内の制約を聞かされます。「人材がいない」「時間がない」「社内地位が低い」「予算がない」「他部門がいうことを聞かない」。しかし、「人材が豊富だ」「時間が余っている」「社内地位が高い」「予算が潤沢だ」「他部門がなんでもいうことを聞いてくれる」といった状況分析を教えてくれる部門があるはずはありません。誰もが、なにかしらの制約、桎梏、しがらみ、抑圧のなかで生きています。
ただ、なんらかの工夫ができないでしょうか。逆境を、むしろ使うという倒錯した発想ができないでしょうか。「他から学べ」という言葉が、単に「他”社”から学べ」という意味ではなく、多様な対象があるとしたら、私はそんなことをロックから学ぶべきだと思うのです。