サプライヤトラブル対処法17(牧野直哉)

事例:ある購入品「B」のサプライヤであるC社による検査データねつ造発表された。自社でも購入している可能性が高い。確認すると、具体的な対象顧客や対象となる製品はこれから連絡との回答。ほどなく該当する納入品が連絡。同時に、品質的には問題ないとされ、製品ごとに対象顧客を対象にした説明会を開催する旨連絡があった。
説明会では、業界内の競合企業が一堂に会して説明が行われた。過去の納入品で検査結果の不適切表示が行われたが、品質要求は十分許容値であり、問題はないとの説明に終始。これまで不適合発生の連絡はないが、失われた信頼をどう回復すべきか…

・繰りかえされる検査偽装・データねつ造対応
過去に発生した問題は、様々な識者がバラエティに富んだコメントを行っています。様々なコメントの中で「過度なコストダウン要求」といった表現が見受けられました。とても残念な理解ですね。

検査偽装・データねつ造の発生の原因がコストダウン要求とは直接的には結びつきません。サプライヤ社内のコスト改善の取り組みが、巡り巡って検査偽装・データねつ造を助長する可能性はゼロではないでしょう。そうしてはならないと判断する企業のマネジメントが失われたり、見て見ぬふりをしたりといったマネジメントの問題です。検査偽装・データねつ造の原因が、コストダウン、それも発注企業の過度な要求と言った論調。コスト競争力減退の1つの要因になると大きな危惧をもっています。

検査偽装・データねつ造について、発生企業や同じ業界の企業の調達・購買部門で働く皆様にヒアリングして驚くのは、検査偽装・データねつ造を行っていた担当者に悪意がなく、誤った方法を引き継いでいた点です。悪意なく当事者になってしまったことは不幸ですね。

この問題の真因には既に忘れ去られた感がある「2007年問題」があります。これは、1947年から52年の5年間の第1次ベビーブームに生まれた団塊の世代が定年退職を迎える2007年。ベテランの技能の継承を懸念されたのが「2007年問題」です。業務の裏表を知る熟練工やベテラン社員が一斉に職場をあとにするため、現場のノウハウが若年層に伝承されず、現場の力量が急激に弱体になるのではないか。そんな危惧が大きくなっていたのです。

団塊の世代の皆さんは元気な方が多く、すぐに会社を去ることはありませんでした。同じ職場や関連企業に再就職して、引き続き自分のノウハウで企業業績に貢献する姿がありました。2007年以降も、当初危惧された目立った問題の発生はありませんでした。検査偽装・データねつ造問題が次々と発生したのは2007年から10年が経過した2017年です。この10年にはこんな意味があると考えています。

・雇用延長や再就職で引き続いて働いた団塊の世代の皆様も、徐々に企業の現場から姿を消し、同時にノウハウも逸失。
・発注企業も同じ境遇にあり、ノウハウのないもの同士で取引を行った結果、スペックや基準通りでなければ受け入れられない厳格化が進展。
・一部要求基準は満たせない場合「特別採用申請(いわゆるトクサイ)」をサプライヤが発注企業に申請すれば良い。しかし本当に大丈夫かどうかの判断が発注企業とサプライヤの双方で困難。結果的にトクサイするにも膨大な説明資料作成と、顧客説得を要する事態
・従来よりもトクサイには過大な負荷が発生。あるとき「これまでと大差ないから大丈夫だろう」といった根拠なき自信によりデータねつ造や偽装が発生

かなり以前から検査偽装・データねつ造を行っていた例も報告されています。全てが当てはまらないでしょう。しかし検査偽装・データねつ造を行っていた当事者に悪意がない。そういった状況をチェックすべき立場にあるにも関わらず、少なくとも正しいかどうかの意識もなくOKしていた点で、管理職やマネジメントの責任は非常に重いのです。

もう一つ、発注企業にも責任があります。高品質や優位性を求める余り、過度なスペックや基準をサプライヤへ要求する点です。発注企業から検査内容の指定があって、サプライヤがどのように検査すればわからない。発注企業に問い合わせると、発注企業の担当者もわからなかった、なんて笑えない事例をたくさん耳にしています。方法論がなくレベルの高い結果だけを求める発注企業の姿勢にも反省の余地は十分にあるのです。

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