坂口孝則が流した涙の理由(坂口孝則)

「五木ひろしの夢を見た」

この一文を読んで驚愕しました。週刊文春で「考えるヒット」を連載する近田春夫さんの文章です。このように一文目を私が工夫するのは近田さんの影響ゆえです。

さて、みなさん寝ているときに夢を見ますか。私はよく見ます。夢は不思議なもので、夢のなかで誰かに殴られて起きてしまうとします。すると、実際に、隣で寝ていた息子から頭を蹴られていた場合があります。また、ある夢では、ひんやりとした雨が降ってきたと思ったら、隣の息子がおねしょをしていたこともあります(昔の話です)。

つまり夢と現実がリンクしているのです。信じられない。しかし、先日に面白い学説を聞きました。逆というのです。さきほどの例でいえば、私が蹴られた瞬間に、脳がさかのぼって話を一瞬のうちに作っているらしい。また、おねしょに触れた瞬間に、それまでの物語を一瞬で作ってしまい、あたかも私が夢を見ていたかのように信じ込ませるらしい。

仮説です。でも、面白いと思いました。なぜならば、よく「過去は変えられない」といいます。しかし、実際は過去の記憶を塗り替えているのです。むしろ過去は捏造されているんじゃないでしょうか。

みなさんの上司を見てください。昔の武勇伝があるはずです。しかし、ほんとうに昔からすごかったひとでしょうか。相当な部分は美談として歪められているはずです。私だって過去のことを述べますが、良いところだけ切り取っている可能性は忘れないほうがいいでしょう。

話を変えるようで変えません。以前、私が職場を去ろうとして上司に相談したときのことです。すると上司は「わかった」とだけいいました。「部下が辞めるということは、組織や会社の成長スピードよりも、部下の成長スピードが上回ったということだ。残念だが」と。この言葉に強烈な印象を受けました。そして、涙しました。

たぶん、みなさんの会社では、自社の創業物語とか過去の成長物語を聞かされているでしょう。でも、過去はいくらでも美談に塗り替えることができるんです。重要なのは、この瞬間に成長機会を与えているか、です。現代の若者で「昔に生まれたかった。経済が成長している時代に生きたかった」というひとがいるようで、驚いたことがあります。

昔なんて、どうでもいいんですよ。犬にでも食わせればいい。重要なのは現在が面白いか、成長しているかです。

現在、コロナ禍で、新たな手法を模索する相談が増えてきました。それでも、昔の調達手法を捨てられない組織は多いものです。成功体験にしがみついたり、方法は変えられないとルールを説明したりする。

そこで、提案です。「こういうルールや過去からの経緯があって変えられない」というひとには「ルールや過去や、しがらみや、人材やお金、設備やシステムなど、すべての制約が無くなったら、あなたはどんな提案ができますか」と問うようにしませんか。調達業務は、とくに、しがらみやらに縛られます。でも、その制約がなくなったときの提案力、妄想力こそ私は重要だと思うのです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい