購買王様の暗躍と購買業務のウソ八百(坂口孝則)

むかし、むかし、購買王様がいました。そのときは、購買本部長と呼ばれ、すべての購買業務を取り仕切っていました。

部下という家来が相談しにやってきました。「王様、今年は大変です。購買量が減っているので、コスト削減なんてできるはずがありません」。王様は答えました。「お前は、何年この仕事をやっているんだ。ふむ、なんとか数字のつじつまを合わせなさい」。部下は「どうやるんですか」と言いました。「バカ者。原油が下がっているだろう。それを購買の取り分にしないでどうする」と王様は怒りました。

「いや、4月に下がった後、原油は上がっています」と家来がいうと、王様は「バカ者。2019年の平均よりは下がっているじゃないか。市場全体の動向を購買の成果として声高に叫ぶのは当然のことだぞ」と怒り続けました。「うむむ。あとは開発部門がVAを取引先に依頼しているだろう」と王様は確認しました。家来は「いや、あれは開発部門の成果ですよ」というと、すかさず王様は「それを取引先に実現させたのが購買の成果というものだ!」と怒りました。

「しかし、発注数量が下がっているので、あまり下がっていないのも実情でして」と家来がいうと、王様はすかさず「数量が下がっているのに、価格を維持できた! ワオー! 神様よ!」と天を仰ぎました。王様は「あんたねえ。CAってわかる? 客室乗務員じゃないよ。コスト・アボイダンスだよ。数量が下がるのに、コストが上がるのを回避できたんだから、そりゃ購買の成果でしょう」と言って譲りません。

「ただし、通常は発注数量が下がっても、なかなか価格は上がらないと思いますが」という家来の進言も聞きません。「あのなあ、数量が2割ほど下がっても、価格を維持できている。計算上は1割とか2割とか価格が上がってもいいと思うよ。それをさせなかった。すごい成果じゃん。神よ! あなたは私を見捨てなかった」。

「はああ……」という家来に、王様は「計画は必達。これは、きっと購買部の行動指針にも載ってたはずだよ」と、ありもしない規約を持ち出しました。

「あ、そういえばさ」と王様は切り出しました。「米中戦争で円高になったじゃん。あの円高による輸入品のコスト安って、購買の成果にならないかな」。家来は「王様、さすがに、通貨変動は購買部の成果ではないと思うんですが」と返事すると、王様は「そうかなあ、トランプ大統領に祈願して対中貿易を仕掛けてもらったのって、俺たちの祈りが通じたって言えないの? それ、経理のあいつに購買コスト削減施策として計上できないか聞いといてよ」。

……

さすがに、ここまでひどい会議はないでしょうが、類似の会議に参加した経験からは、コスト削減カウントの適正化を「祈り」ます。すべては基礎と基本。調達業務の適正化を心から祈ります。

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