うつではないのに調達業務が嫌になる理由(坂口孝則)

みなさんイギリスのナショナル・ギャラリーはご存知ですか? 博物館です。面白いのは、その地下。贋作(ニセモノ)の記録と、美術館員がなぜ間違って買ってしまったかの膨大な分析が残っています。展示品より面白いくらいです。日本ではありえませんね。

日本は、とりあえず失敗は隠蔽されます。これまで、みなさんは自部門の結果報告で「戦略が上手くいきませんでした」とか「そもそも方針が間違いでした」といった総括を聞いた経験がありますか? 私はありません。それは、新型コロナウイルス対策の何が上手くいって、何が上手くいかなかったのかわからないままに、精神主義で自粛に突き進む現状と似ています。

話を調達業務に移します。

現在、企業のガバナンスが厳しくなっています。なぜその取引先に決めたのか、なぜその価格にしたのか、記録を残す必要があります。そして、今後、もし取引先に不良や不正があれば、そこに決めた調達部門が厳しく問われることになるでしょう。

企業は三権分立といって
・仕様を決める人(設計者)
・取引先を決める人(調達部員)
・検収をする人(生産部門)
をわけるように勧めています。

欧米などでは、さらに調達部門の三権分立といって
・取引先を評価する人
・取引先を決める人
・取引先への発注数量を決める人
をわける動きがあるようです。役割を分けて透明性をあげようというわけですよね。

どこの企業でも、取引先を決めるのは調達部門の仕事です。決めたら責任を取る必要があるので、価格や納期、品質、生産中止等の責任を調達部門が負います。

しかし、ここで私は問いたいと思います。

ほんとうに調達部門が取引先を決めているでしょうか。実際には、設計や開発部門が推薦してきた取引先を追従しているだけではないですか。もっといえば、事実上、調達部門の意見を聞いてくれてないかもしれない。

私は、この現実をまったく無視するコンサルタントや講師ばかりで不満でした。でも、実際にはほとんど調達が決めていない。

私は、このガバナンスが厳しくなった時代こそ、「取引先決定委員会」「価格決定委員会」が必要だと思います。これは、実態は、なぜその取引先にしたのか、なぜその価格で決めたのか過程を記しておく組織体です。表面的には調達部門が取引先を決めたことになっている。しかし、実情は設計部門からの強いプッシュがあった、などを細部を記載しておくのです。

このタイトルは「うつではないのに調達業務が嫌になる理由」です。理由は明らかでしょう。自分が決めていない事柄の責任を取らされるからです。以前、ファストフードチェーンで名ばかり管理職が問題になりました。バイトの採用権限もないのに、問題が起きたら責任を取らされるのです。これでは誰もが嫌になります。

そこで、私は「取引先決」「価格決定」の過程を仔細に記録しておくことを勧めます。そして、自分が押し付けられようとする責任を回避することが最善の策です。権限と責任はセットであると知っておきましょう。

そして、もう一つ重要なことがあります。「なら、調達部門で決めろよ」と言われる場合の対策です。他部門を批判するのは簡単です。難しいのは、自部門で責任を取って決断することです。いろいろと調べたり考えたりせねばなりません。むしろ、他部門に決めてほしい、と思うほど面倒なプロセスが待っています。ある取引先を選んでQCDや環境対応が遵守できるのか。他部門任せにしていた内容を考えねばなりません。

でも責任を持って働く、とはそういうことですよ。

話をまとめます。「うつではないのに調達業務が嫌になる理由」は、他部門の決定に従う部門体質だからです。と同時に、負けないように過程の記録化を勧めます。そして、決断を任せられたときの覚悟がなければ、むしろ言いなりになったほうが楽ですよ、ともいっておきます。

どの取引先を選ぶか、そして価格はいくらか? これから脱炭素化社会において、どの取引先を選んだか、その記録がより重要になってくるでしょう。

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