恋愛と調達業務の関係について(坂口孝則)

私が大学生のころ、第二外国語だったフランス語のテストで「持ち込み可」の条件がありました。これは基本的には辞書だとかを持ち込んでいいように解釈されます。しかし、私の知人は、フランス人留学生を持ち込もうとしました。教授と口論していましたが、結果は持ち込めず。その知人は「どうせ勉強してもフランス語は話せない」と話していました。

人はいつも安直な方法に流されます。この知人の言うことは半分は合っていて、半分は間違っています。なんでも新たな技能を身につけるときは、一朝一夕では無理で、けっきょく地道に積み上げるしかありません。世の中には「短時間で身につく」といった書籍があふれています。しかし、短時間で身につくスキルは役に立ちません。

ところで、みなさんはスマートフォンで寝起きのアラームをかけていますか。そのとき、なかなか一回では起きられずに「スヌーズ」(プラス数分後にまたアラームを鳴らしてくれる機能)ボタンを押していますよね。なぜでしょうか。多くのスマートフォンでは、アラームの停止よりもスヌーズボタンのほうが押しやすくなっています。このデザインは意図的なものです。たくさんボタンを押してもらったほうがスマホを眺める時間が増え、そのぶん中毒になってくれるからです。

人間は簡単な方に流されます。たぶんスヌーズがものすごく押しにくかったら誰も押さないでしょう。

では調達業務はどうでしょうか。誰もが、心のなかでは、「業界や市況、契約、法律、製品知識、英語といったものを学ばなきゃ」と思っています。しかし目の前の仕事をやっているほうがラクなので、どうしてもすぐに成果が出ないものや、改善がわからないものは後回しになります。

だから注文書を出すのが仕事になってしまって、調達業務をずっとやっているのに数年前とスキルが向上していないケースが多々あります。

どうすればいのでしょうか。

男女の恋愛は「あなたのことをもっと教えて」で始まり、「あなたがどういう人だか、もうわかっちゃった」で終わります。おそらく仕事も同じではないでしょうか。調達業務に希望を感じない人は「調達っていう仕事は、けっきょく、この程度ですから」と諦めを語るものです。

調達業務が広く深く、とても数年では習得できないくらいの知識が必要とされている、ということを上司は部下に伝える必要があります。そして、部下は部下で、目の前の仕事をこなすくらいは最低レベルにすぎず、信じられないほど先にゴールがあると認識する必要があります。

列記するだけで昨今に必要な調達知識は広がっています。
・脱炭素、CO2排出量計算ルール
・反トラスト、独占禁止法
・商法改定
・電子署名法
・人権サプライチェーン、コンプライアンス
・3つのディフェンスラインによるリスクマネジメント
・市況分析とフォーミュラの作成
・AI、DX

「調達がどういう仕事だか、もうわかっちゃった」と思ってはいけません。調達とは社会と対峙する仕事ですから、社会が変わりゆく以上は追随せねばなりません。調達は変化対応業です。そして、これらを学んで実践するのに近道はありません。愚直にコツコツと、調べたり読んだり調査したり勉強したりするだけです。

そして男女の恋愛と同じく、幻想であっても「調達のことをもっと教えて」と思い続けているほうが楽しい時間が続くと思いますがいかがでしょうか。調達部員は、その気さえあれば、さまざまな業界の実情を知ることができます。それなのに、ずっと仕事をしているのに「注文書を発行するくらいしか知識も経験もありません」では悲しいと思いませんか。

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