同じことができなくなる事態に備えよ(牧野直哉)
寒さ厳しい中、受験シーズン真っただ中ですね。先週末は大学入学共通テストが開催されました。新たな制度になって2年目。受験生をおもちの親御さんは、やきもきする日々ですね。これまでの努力の成果を出し切って、悔いなく試験を受け、春には「桜咲く」の吉報を祈ってやみません。
しかし昨年に引き続きコロナ禍での受験。受験生だけではなく、学校関係者や親御さんは感染には最大限の警戒を行っていらっしゃるでしょう。このタイミングで感染力が強いとされるオミクロン株の流行拡大は、受験生と関係者には重い負担でしかありません。一方で、受験生へのセイフティーネットともいえるウイルス流行最中での受験機会設定が報道されています。濃厚接触者として受験方法の設定や、感染した場合の「追試」機会の設定です。
受験生にとってウイルス流行の中、注意しても感染してしまった場合の備えとしては有り難い制度ですね。こういった施策を打ち出すのはすばらしい。こういったきめ細かい対応は、日本のお家芸です。そんな中で、きめ細かい対応を実践した結果、受験を行う学校側で発生する負担に対応できるのだろうかと不安がよぎりました。
受験は準備ができないからといって先のばしできないイベントです。国公立大学の二次試験後期日程の発表日は既に3月20日以降に設定されています。合格者はこの後に、様々な4月に進学する準備を入学式までに完了しなければなりません。したがって、これ以上受験から合格発表までのスケジュールを延ばしたり、後ろに倒したりは、現実的ではありません。合格発表日はボトルネックとして、それまでの期間で新たに発生したきめ細かい対応を実践しなければならないのです。これは現場に想像以上の負担を強いるはずです。
きめ細かい対応により、例えば試験実施が複数回におよぶ場合を想定します。入学試験は「公平性」が必要です。だからといって同じ問題での試験はできませんね。試験問題の準備、採点の準備が、一回の追試で作業として倍になる。更にきめ細かく対処しようとすれば、新たな負担が増えます。こういった対応の複線化の影響で発生するミスも想定できます。受験生のみならず、入学試験を実施する学校側も合格発表、ひいては新入生入学まで気が休まる暇がないでしょう。
今回旬な入試・受験を例にしました。こういった事象はビジネスパーソンにも発生します。調達・購買業務でも当然同じ。社内的にも、そしてサプライヤへの依頼内容でも、人手不足や従業員の高齢化といった影響により、きめ細かい対応ができなくなる事態です。加えて緊急で対応すべき取り組みには、対応者マンパワーの最大限発揮が必要です。そういった対応が危うくなっているのは入試や受験の現場だけでなく、あらゆる業種の様々な現場で実際に発生しています。
過去と同じ発注内容で同一人物が対処しても、同じ結果にならない事態です。例えば、従業員数に変化はなくても従業員の平均年齢が高くなっている。従業員の退職で人員補充がない。そういった事態は、短期的には何とかムリすれば乗り切れるかもしれません。しかし中長期的な「ムリ」は不十分な結果を導く可能性も高まります。
製造業のバイヤは、サプライヤの工場をみるとき3M(ムリ、ムダ、ムラ)がないかを探します。ムダとかムラは効率向上につながるので、比較的注意して見ていたはずです。一方「ムリ」は多少目をつむり、ムリを承知で目的達成にまい進する姿勢を褒めたたえていました。従来のムリは能力を上回る負荷の存在を指していました。これからは過去と同じ、あるいは過去よりも少ない負荷でも、人手不足や従業員の高齢化によって能力が下回ってしまう事態を想定した対処が必要になるのです。サプライヤ評価では、従業員の平均年齢や新入社員の採用活動に加えて、ノウハウ継承を実践しているかどうかの見極めが必要なのです。また、できるだけ発注内容をシンプルにわかりやすくすることも、問題発生を抑止する有効な取り組みです。従来と変わらないけれどできない、そんな現実に直面しても慌てずにすむ心の準備だけはしておきましょう。