調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(3)-15

また、買い占めを行なわずに、予期せぬ発注があった場合には、リードタイムの長期化で顧客に迷惑をかけることになります。もちろん、同じだけの確率でリスクを回避し、正しい判断だったと後にわかる可能性もあります。この問題への解決には、全社で統一した意思決定によって、全社一丸の対応が必要なのです。震災はどの部門にも同じく被害をもたらします。買い占めるかどうか、その点での良し悪しは存在しません。ビジネスを行なう上では、どちらも正しくもあり、間違いにもなる可能性があるのです。

3)生産を開始できたのはなぜ?

地震発生の翌週、多くの自動車メーカーが工場の稼働をストップさせました。また他の産業でも、サプライチェーンの寸断によって原材料や部品の供給が滞り、工場の稼働を見送った企業が相次ぎました。また首都圏では、計画停電による電車の運休によって、社員が自宅待機を余儀なくされました。

震災発生から一週間以上経過して、引き続き工場を止める企業がある一方で、早々に稼働したところもあります。これは、生産に耐えうる在庫をもっており、かつ在庫が震災による被害を受けなかったことによるものです。生活必需品であったり、顧客からの需要があったりした場合、一刻も早い生産再開は買い手、売り手の両方にメリットがあります。被災者状態から脱却する意味でも重要です。Just In Time生産では在庫をもたないことがトータルコストの削減になっており、一概に在庫を持つことが良いとはいえません。ただ、震災後に在庫があることはとても心強かった。これは事実でした。

ただ、在庫を持っているだけで、その幸運に巡り会えるわけではありません。在庫への被害が及ぶ事態も今回の震災で明らかになりました。今回の震災に関してバイヤーへおこなったアンケートの中で、在庫の保管状態についての言及が多く見られました。一定在庫を持っており、震災によっても被害を受けなかった為に、すぐに顧客のニーズに応えられた、また生産を再開できたとのコメントがありました。一方、在庫を保管する倉庫が被災し、混乱を招いたとの報告もありました。特に立体自動倉庫は、物理的に破損した、また停電によるシステムダウンで再稼働に時間を要したとの声を多く耳にしました。在庫とはただ持てばよいのではありません。震災の被害からいかにして在庫を守るかとの考慮も今後十分な検討が必要ということです。

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