3章-3:コスト削減
翌朝から劇的な変化が生まれたか、というとそんなことはありません。でも、着実に何かを変えようと、彼は思いました。
彼はそもそも調達・購買希望ではなく、営業希望でした。営業とは、お客を幸せな気持ちにすることです。いまの自分は、関わる人すべてを幸せにしているでしょうか。答えはNOでした。でも、営業ではない自分がどうやって関係者を幸せにできるでしょうか。答えはわかりません。でも、何かやってみようと思いました。
彼の会社はSAPのR3というシステムを使っていて、現業の担当者が調達依頼書を出すときに、それぞれの調達担当者の名前を入れることになっていました。彼は、調達依頼書を出してきた現業の担当者名と、調達品をメモしておきました。すると、少しずつですが、面白いことに気づくようになりました。
「この現業の担当者は、ある取引先の製品ばかりを依頼してくる」「こっちの現業の担当者は、違う取引先の製品ばかり依頼してくる」。それは些細な発見ではあったものの、大きなことのように彼は思いました。彼は、これまで見えなかったものが見えるようになっていたからです。
あるとき、彼は、現業の担当者が某製品を発注する際に、電話してみました。
「○○さん、あの、この製品を発注なさろうとしていますよね」
「そうだよ」
「いや、この製品と同機能のものが倉庫に眠っていて、そっちを使えばタダになるんじゃないかと思って……」
「え、そうなの? ありがとう。他部門が発注しているものなんて気づかないから、助かったよ」