5-(2)-1 社内の多様性を束ねる

・多様化する組織と個人

サプライヤーからの調達品を選定する主体

かつて業界の流れが調達品を決定していました。しかし、製品の少量多品種化に伴い、その決定権は企業・組織、そして個(個々人の設計者・バイヤー)に移行してきています。

高度成長期には、「いつかはクラウン」という言葉があった、と歴史は語ります。国民の大半が物質的豊かさを求めていた時代。そこには、バナナよりもメロンの方が、カローラよりもクラウンに乗る方が、それぞれ上位価値であるという共有認識があったと。

しかし、物質的豊かさを享受したあとは、絶対的な価値基準が崩れ、個々の価値観が多様化していったとも歴史は語ります。それは、「一億総中流・大衆の時代」と言われていた季節から、「分集の時代」へ。そして格差社会の到来と共に「個の時代」と呼ばれる季節がやってきたことからも読み取れます。

おっと、本書は世相論を主題としているわけではありませんでした。調達・購買の話に戻しましょう。私はざっとした社会の移り変わりを書きました。会社組織がそのような潮流に上手く乗っかって変容してきたかと言えば、そんなことはありません。常に組織とは世間の流行から一歩遅れて変わっていくものです。

かつて、社内で老年の設計者や企画屋さんたち調達品の話をしていると、必ず出てくるのが「それは業界で使用することになっているから」というものでした。業界統一基準の話ならばまだ理解できます。しかし、その人たちが言っているのは、「こういうものを使うのが決まりみたいなもんだから」ということのようでした。

そこで、「絶対的なルールでなければ、変えても良いでしょう?」と安価な部品を紹介しても「いやあ、そういうもんじゃないんだよな」と訳のわからない諦念をつぶやかれるだけ。その代わり、その見えない「縛り」は強力だったようで、特定部品・特定サプライヤーからの調達は揺らぐことがありませんでした。

そこから幾星霜。わずかの間に、どこのバイヤー企業でも開発製品数は倍々ゲームで増えていきました。その原因は、市場から求められることの多様化です。これまで一つの仕様のものだけを作っていれば良かったものを、二種類、三種類と作っていかねばならない状況が生じました。求められる仕様が異なれば、部品も単一のものを使えば済むということはなくなり、統一基準を確立することも難しくなりました。同時に、トップが一つ一つの調達品までをかまっていられなくなり、どうしても調達品の選択主体も個別化していったのです。それは、企業が「これからは社員それぞれの個を活かす時代だ」と舵を切ったわけではなく、時代の一つの帰結でした。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい