6章6-1<セクション4~コラム②「CSR調達とその事例」>

・欧米のCSR調達例より~スポーツ用品メーカー/IT機器メーカー

ナイキは、自社工場を持たずに、企画・開発・販売活動(含む広告宣伝)に特化したファブレス企業です。ナイキが最初にシューズを生産した国は日本でした。その後、韓国や他のアジア諸国のサプライヤで自社製品を生産していました。

1980年代の後半から、ナイキ製品を生産する工場における児童労働が報じられていました。しかし、ナイキは「生産委託先工場の責任」として、問題解決に取り組みません。そんな姿勢が大きく問われる事態が1996年に発生します。

アメリカの雑誌「LIFE」に一枚の写真が掲載されます。ナイキのシンボルであるスウッシュマークの入ったサッカーボールを少年が縫い合わせる写真です。当時の報道から、写真の少年が12歳と明らかになります。これによって、マスコミだけではなく、NGOのナイキによる児童労働の実態解明に拍車がかかります。

翌1997年、NGOによって、ベトナムや他の東南アジアに所在するナイキのサプライヤにおける、児童労働、低賃金労働、長時間労働、セクシャルハラスメント、強制労働の存在が明らかになります。この影響でカリフォルニア州の大学生達が始めたナイキ製品の不買運動は全米に拡がりました。1998年第三四半期に、前年度対比で売上が69%減少する事態に追い込まれます。

1997年当時の日本はどうだったか。当時の日本は、ナイキの「AirMax」が大人気でした。1995年に発売された「AirMax95」は、履いている人間から奪いとる「エアマックス狩り」といった事件が起こったり、ニセのAirMaxを販売したりといった事件も起こりました。当時、特に若者が注目するブランドでした。しかし、LIFE誌の写真掲載の後も、売上げ減少の顕著な影響はありませんでした。

ただし、この事件の以降、ナイキは企業活動における環境や安全衛生、健康管理を重視する姿勢を打ち出します。現在では、ナイキ社の調達・購買/サプライチェーン活動をホームページで公開しています。

また、アップルコンピュータ製品を生産するフォックスコンの工場で、自殺が相次いで発生していると伝えられました。実際には、ナイキのような売上減少には至っていません。しかし、ナイキと同じようにファブレスであるアップルコンピュータは、サプライヤ管理におけるCSRを強く意識しておこなっています。

調達・購買部門の活動で、サプライヤマネジメントに関しては、ほぼ大半のプロセスをホームページ上で公開しています。

この2社の共通点は、「サプライヤの責任であって、自社(発注元)の責任ではない」といった姿勢を、全面的に否定しているところです。アップルコンピュータも、明確にサプライヤに立ち入り調査をおこない、お互いの力で労働環境を改善していくと宣言しています。

ナイキの例では、本社所在地である米国の法令は遵守していたでしょう。そして、海外サプライヤへの発注に際して締結する契約書にも、企業所在地における法令遵守を明記し、サプライヤには課していたでしょう。それで法令遵守している企業姿勢は貫けたかもしれません。

しかし、先に紹介した児童労働の証拠写真のインパクトによって、自社で法令は遵守していても、ブランドイメージの失墜と、売上減少は防げませんでした。そこからナイキは、方針を転換し、先鋭的なCSR調達に取り組んできました。

その他、代表的な企業事例をあげてみましょう。スターバックスでは、「フェア・トレード」のラベルが付いたコーヒーを販売し、コーヒー生産者から国際商品市場を上回る価格での購入を保証しています。また、イケアは、インドの敷物納入業者に対して、児童の一雇用を禁止し、児童が労働市場に駆り出されることがないように、家族に対して資金援助しています。

これら各社とも、自社の調達・購買活動によって、事業推進上で生じるリスクへの対処をおこなっています。CSRは、日本と欧米では、企業の置かれた状況も異なります。ただし、日本企業にも多くの教訓が得られます。

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