1章-1<ケーススタディ①~コストダウンしたくても一社独占で難しい>
私は中堅の自動車部品メーカーで働き、設備購入を担当している調達担当者だ。新規設備を購入しようとすると、いつも既存サプライヤとモメてしまう。見積書を提示して交渉すると、いつも5%を引いてくれる。しかし、それは完全な規定演技で、もともと高い価格を提示しているだけだ。
ときには購入実績よりも高いケースがある。すぐには使えないが、相見積をして、その価格をチラつかせると、「それならウチから買わなければよいのではないですか」といわれる。
社内に新規サプライヤを打診すると、拒絶反応が返ってくる。「新規サプライヤはウチのルールを知らない」「あうんの呼吸で仕事ができなくなるのは、デメリットだ」「そもそもうまくいくのか」「競合他社の価格を持ち出して、既存サプライヤの価格をもっと下げればよいのではないか。その方がラクだし効果もある。そういう交渉をするのが調達担当者の仕事ではないのか?」「コミュニケーションがうまく図ることができるかわからない。そもそも新たなサプライヤを入れるなど面倒ではないか。品質基準など、ウチのやり方を教えるのは調達担当者ではない。生産技術課なんだぞ」……など、さまざまだ。
しかも「会社幹部の意向も配慮しなくてはいけないのではないか?」とうひとまでいる。すなわち、しがらみがあるから、簡単に切られないというのだ。
さらに既存メーカーがなぜか社内の事情に詳しい。この前など、私が新規サプライヤを検討していると、どこかから聞いたようだ。すぐさま営業パーソンがやってきて、「詳細設計については、ウチのノウハウが入っている。今までのつきあいもあり、契約というわけではないが、成形機を他社に頼むのはルール違反である」とか、いきなり「価格や納期については、あるていど相談に応じる」と態度を難化してきたり、「なんといっても御社とは付き合いが深い。今後ともうまくやって行きたいので、発注して欲しい。御社の幹部にもお世話になっている」と泣き落ししてきたりする。
どうしたものか。上司に相談しても、いつも教科書的な建前を繰り返し教えられる。「調達先を決定するのは、わが購買課の仕事である」「各部署に配慮は欠かしてはならない。ただし、われわれの仕事は基本的に調達コストを下げることだと忘れるな」。
私は寡占状態のサプライヤを対応するなかで、
- どうやってコストを削減すればいいのだろうか
- そして、どうやって新規サプライヤを探せばいいのだろうか
- また、どうやってサプライヤに緊張感を与え続けることができるのだろうか
といったことに悩み続けている。私の会社では、まとめるとそれなりの量の設備を発注しているし、拠点をまたいでまとめればさらに量は増えるだろう。こういう観点からコストダウン交渉などできないものか……。
そして、社内を協力的に導けないものか……。