4章-6 モチベーションゼロの仕事術
ニュース番組を見ていると、キャスターがレポーターを呼んで現場から実況させることが多い。そのときに、レポーターの名前を大きく呼びかけることがある。レポーターもつられて「はい! 現場の○○です」という。これにはそれなりの意味があり、「はい!」といわせて、腹式呼吸を開始させている。さきほど、ナーバスな状況から抜け出すために腹式呼吸が必要だといった。レポーターはプロの話し手ではないこともあり、緊張状態が続いている。もちろん、「はい!」だけですべての緊張がほぐれるわけではない。ただ、そのようにしてキャスターはレポーターに少しでも通常状態での実況を期待する。
心のなかで仕事をやりたくないと感じるときは、その仕事を「今」やらねばならないことの根拠が希薄だからだ。心がそのような状態なのに、無理に心を変える努力を重ねてもムダだ。緊張しているときも、緊張している心を変化させることは難しい。まずは体を変えようと試みることだ。
ところで私は異常なほどに電話を嫌悪している。私の知人であれば、ほとんど私が電話に出ないことを知っている。もちろん、仕事上の電話も苦手で前職のときは、できるかぎり個人携帯の電源を切っていたほどだ。約束もなしに他人の家を訪ねるひとがいたとすれば、それは失礼にあたる。電話も、先方の状態を把握せずに侵入する意味ではおなじことだ。さらに、電話をかけてきて、こちらの都合も確認せずに話しだすひとまでいる。
電話をかけるときは、あらかじめ「何時ごろ電話します」と伝えることがふさわしく、もっといえば、メールでじゅうぶんだ。これからは、非同期化の時代だと思う。同じ瞬間に同じように勤めているひとたちばかりだとは限らない。働き方も多様化している現在では、メールなどの手段がふさわしいだろう。
電話の悪口はもう止めておこう。
閑話休題。
電話に必ず出なければいけないときがある。読者のなかにも、電話恐怖症のひとがいるだろう。ただ、仕事上、どうしても電話でのやりとりをゼロにできないことも多い。これも同じく、心と体を逆転したアプローチを用いる。
電話が嫌いなのに、電話の重要性や、対話することの利便性をいかに自ら思い聞かせても意味がない。心の問題を心にアプローチするのではなく、体にアプローチする。さきほど、腹式呼吸をすることによる効果をあげた。とはいえ、気づかないうちに腹式呼吸から胸式呼吸に戻っていることがある。最初のうちは意識して腹式呼吸を続けないと、お腹から声を出すことができない。
そこで、電話がかかってきたら、「この電話は腹式呼吸で話すぞ」と決める。電話が鳴った瞬間に呼吸を開始し、「はい! もしもし」とまず一言目を腹式呼吸でいってみる。お腹の風船を高スピードでつぶすイメージだ。会話のなかでも、できる限り、お腹から息を出すようにする。そうすると、いつの間にか、忌み嫌う電話が腹式呼吸の練習場となる。
読者は、私のことを馬鹿にしているのではないかと思う。
でしょ。
ただ、つまらない仕事でも体のトレーニングに置き換えることでしのいできた、ひとりの宿痾的な人間のノウハウだと思っていただければありがたい。