1-(1)-2 調達・購買とは何をするのか「私の経験」

「ナメてんのか。この野郎!」

私は購買部に配属されたときのことを鮮明に覚えています。机に座るなり、後ろからドカっという音とともに大声が聞こえてきたのです。

その直前まで、「調達・購買部門の使命について」という美辞麗句を教え込まれていた身としては「だいぶ現実と教科書は異なるらしい」と思いました。

その大声はサプライヤーと電話をしている年配バイヤーのものでした。ドカっという音は、机を叩いた音でした。

バイヤーは外部から色々なものを購入することが仕事です。「会社の金を使って買い物をするなんてうらやましいな。仕事は楽勝でしょう」と言われたこともあります。実際、調達・購買部門はこれまで重要視されていた部門とは言い難く、サプライヤーとゴネて交渉する役割程度としか思われていなかったのが現実ではないでしょうか。

しかも、製造業の場合は、バイヤーが何を購入するかを決めなくても設計者が決定してくれます。何もしなくても、特に問題になりません。

私の最初の仕事は、「納期遅れリスト」に記載されたサプライヤーに順に電話をかけることでした。約100部品についての納期確認を繰り返します。「この部品まだですか」「ちょっと待ってください」というやりとりを何度も何度も繰り返すのです。

次の仕事は、「高額購入品リスト」の中に載っているトップ10を順にコスト低減することでした。「やっと仕事らしくなってきたな」と思いましたが、実態はこれまた電話を繰り返し「とにかく安くして下さい」と言うだけでした。

「分かりました。では1万円だけ値引きします」とサプライヤーが言ってくれたら、すぐに新たな見積り書を送付してもらいハンコを押す。こういうことを繰り返していました。

日々疲れていましたが、いつの間にか納期催促とコスト低減の依頼を繰り返し電話することに慣れてしまいました。

こういうのは慣れてしまうと、意外に平気でやれてしまうようになるものなのですね。快感にも近くなっていました。

30万円で購入していたところを、自分が少し交渉したら28万円で購入できる――つまり、2万円会社に貢献できる。しかも、納期が遅れそうなときに、自分が交渉してなんとか生産ラインをつなぐ。こんなに簡単なのか、とすら思ってしまうようになりました。

そうやって半年ほど経ったころです。私はいつも通りサプライヤーに電話をかけていました。

「製品番号GYF43-232の納入スケジュールなのですが」と私はサプライヤーに尋ねました、「納入期日は昨日でしたが、まだ納められていないようです」。もちろん私はその製品がどういうもので、どういう重要性を持ったものかは知りません。ただ、注文書を見てその納期通りに調達することだけが私の仕事と思っていたのです。

「ああ、その製品ですか・・・。それって、時間がかかっちゃっていて、相当遅れそうですね。あと3週間くらいはかかりそうなんですよ」と営業マンは申し訳なさそうに言いました。

すると、私はすぐさま「そんな遅れて、一体どうするつもりなんですか!」と、つい話しながら机を叩いてしまいました。

ドカっ、という音がしました。

配属されたばかりのときに聞いた音だ、と思いました。

いつの間にか、自分は年配者と同じ事をやっているのではないか。

その音を聞いたときから私は、次のことを繰り返し考えています。

「調達・購買とは何をするのか」ということ、そして「バイヤーは何のためにいるのか」ということを。

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