非道徳調達ですべては成功する
昔の思い出です。かつて、某企業様から集合研修のお願いがありました。そして「調達・購買担当者のために、見積査定の研修を」とのことでしたので、講義をしました。そして、講義の途中で、受講者様から質問がありました。
「正しく査定しても、結局、高かったら意味がない」と。おそらく、これは質問ではなくご感想だったと思います。私が「でも、正しく計算して高かったら補正するしかないんじゃないでしょうか?」と言いましたら、「コスト削減のための、見積査定だろう! なぜコストを上げるために査定するんだ!」と反論されました。私としては、その意図は研修企画者にお聞きいただきたかったのですが、「それが見積査定ですからね」と答えました。
すると、その方は「知るかバカ」とおっしゃいました。これは原文のママです。いろいろなお考えの方がいらっしゃると思いますので、私はそのまま肯定したいと思います。私は心から、この方のご発展とご成功を祈念しています。
さて、ところで、これに関連して某データをあげます。次の数字です。
・シリコン製造業:東京電力の値上げ幅から計算すると業界全体で約140億円のコスト増。ただし、国際商品でもあり価格転嫁できず。むしろ価格下落の要請あり。
・金属熱処理業:業界全体で約29億円のコスト増。ほとんどが零細企業で値上げ申請できず。
・非鉄金属製錬業:約86億円のコスト増。やむなく電力料金の安い夜間と休日に操業をシフト。
・産業・医療ガス業:約109億円のコスト増。リストラ、人件費カット、生産設備縮小などを行うも、限界。
・ソーダ製造業:約51億円のコスト増。とくにソーダ製造業は製造コストの40%(!)が電力コストであり死活問題となっている。
・チタン製錬業:24億円以上のコスト増。他国との競争激化で値上げできず、かつ在庫過剰。
・鋳造業:約102億円のコスト増が見込まれる。従業員30名以下の企業が大半を占め、価格転嫁と合理化にも限界あり。倒産が相次ぐ。
・鋳鍛鋼業:約143億円のコスト増が見込まれる。夜間操業などで対応してきたが、限界。
・普通鋼電炉業:約179億円のコスト増が見込まれる。経常利益が吹き飛ぶレベル。合理化にも限界。
・特殊鋼電炉業:約69億円のコスト増。自家発電設備もなく経営にダメージ。
これは、電気代値上げの影響額です。そのほとんどが、客先に値上げ申請ができていません。または、値上げ申請しても認めてもらえていません。これはどう考えるべきでしょうか。先にあげた業界は多量電力使用業界であり、製造コストの10%が(!)電力コストです。だから、モロに電力コストアップをくらってしまいます。
考えかたとしては、「最終販売価格に反映できないなら、そもそも競争力がないんじゃない?」とクールな見方と、「でも日本の基盤を支えてくれているメーカーだから、電力コストアップ分を認めるべきではないか」と温情的な見方の二つがあるでしょう。私はどちらかというと後者です。が、強制はしません。
ただ一ついえるのは、この電力コストアップを認めない調達・購買担当者(調達・購買部門)の存在ゆえに、多くの多量電力使用メーカーが潰れている事実です。それも「しかたない」とする立場もあるでしょう。しかし、私はどうも、根拠あるコストアップすら認めない「非道徳調達」は長続きしないのではないかと思わずにはいられません。コストアップを認めることは、つらいことです。社内でも承認を得られないかもしれない。
でも、「根拠あるコストアップは認める」「代わりに、根拠あるコスト低下もすべて反映してもらう」といった、どこまでも論理的な態度こそが、私たちに必要ではないか、と思うのです。異論や反論があるかもしれませんが、あえていいます。「電力コストアップを認めよう」と。