ドローンの明日(坂口孝則)

・貨物重量の減る日本

意外に知られていないものの、日本全体の貨物重量は減っている。毎日のようにアマゾンやZOZOや楽天から荷物が届く方からすれば信じられないにちがいない。しかし、実際には、それよりもはるかに重く、大きな貨物を依頼していた製造業が国外へ移っている。

自動車を運ぶ場合がある。その一台が海外に移行する。その一台分の重量を代替しようと思えば、どれくらいの荷物を運ぶ必要があるだろう。製造業を主とする空洞化は、大きな影響を及ぼしている。

現在は、細かな、しかし大量な荷物が”運ばれる”対象となっている。それは、たしかに消費社会の象徴にちがいない。もっと単純に想像してもいい。1000kgの貨物があるとする。1000kgで一つの貨物を運ぶのと、1kg1000個の貨物を運ぶのと、どちらが面倒だろうか。

ラストワンマイルが問題となる。これは文字通り、最終の受け取り者へ運ぶことだ。中心お配達所へは効率的に運べるかもしれない。しかし、問題は、そこからエンドユーザーへの配達だ。人間に頼ろうと思っても、人手不足で運べない。求人しても集まらない。そうなると、無人に頼らざるを得ない。だから無数の手段が考案されてきた。そのなかでも、近年、有効な策と期待されたのがドローン配送だった。

・ドローンは難しいのか? 救世主か

日本ではドローン配送の難しさがクローズアップされた。たとえば、ドローンが街中に飛べばどうなるか。カメラを有するドローンがマンションの隣を飛べば、プライバシーの侵害になるかもしれない。

また、どこかの領空は飛べるのか。さらには、荷物を運んだとして、それをどうやって受け取るのか。米国であれば、そのまま住宅の庭に荷物を置いておけばいい。万が一、盗難にあっても、代品を送るだけだ。しかし、日本ではそのようなおおらかな対応は許されそうにない。集合住宅の多い日本では、ドローンが不在ロッカーに荷物を入れることもできない。

そのように考えると、夢の技術のドローンはなかなか実現化が難しい。バズワードになったドローンは、そのように現実化を疑問視された。特区では実験ができるものの、実際に活用するのは、まだ先だと認識されている。

・Uberのしかけるドローン

しかし、そのいっぽうで、イノベーショの聖地である米国では、さすがに進んでいる。先日、Uberの発表は瞠目に値するものだった。Uberのイベントである、Uber Elevate Summit 2019の動画は衝撃的だった。この様子はすべてYouTubeで公開されている(https://www.youtube.com/watch?v=E0Ub9Z8ifiQ)。現在は、Uber Eatsはドライバーによって配送されている。それを無人機によって配送するという。

しかも、行政の認可を得る最終段階にある。出前を提供する業者にとって宅配コストはバカにならない。それを無人で実施する。これはレストラン業界の大きな変化を意味する。これまで店舗に来てもらうスタイルから、料理の生成場所と顧客を自由に繋げられるようになる。

現在、米国では外食産業は伸びている。その理由は、テイクアウトの伸びによるものだ。現在、日本でコンビニエンスストアが生き残りをかけて取り組んでいるのはイートインコーナーの充実だ。日本では外食のパイをコンビニが奪おうとしている。そのいっぽうで、米国では外食産業がその逆を狙っているのである。象徴的なのが米国のマクドナルドで、Uberはドローンを使ったデリバリーシステムを今年度中にローンチすると発表した。

これはこれからの都市設計を考えるうえでも重要になる。というのも、これから世界では、都市部に住む人口が増える。日本のような人口減少社会でも、都市部の人口はなんとか横ばいを保つ。それは、固まって居住することのメリットがあるからだ。過疎地域では、配送を考えても非効率だ。居住者がまとまって住んでいれば配送コストを考えても利便性がある。そこに、自由自在に集荷し、配送するドローンがあれば、その理念を加速化する。

・ドローンの中間利用もありうる

ただし、一軒家ではなく、集合住宅やマンションに住んでいれば、日本と同じく、ラストワンマイルの受け渡しが問題になるかもしれない。しかし、その場合は、ドローン中間物流手段として活用できる可能性がある。たとえば、Uber Eatsの注文者への最終的な受け渡しは人間のドライバーが行うかもしれない。しかし、ドローンを、厨房からの仲介役を請け負う役目としたらどうか。ドローンは厨房から食事を運び、ドライバーからのGPS信号を受信し、そして、ドライバーの荷台にあるQRコードをめがけて飛んでいく仕組みである。それならば、ドライバーも、いちいち厨房に料理を取りに行く必要もないし効率的だ。

現在、世界は非同期にある。いつも全員がおなじような生活を送っていない。誰もが移動し続け、固定点をもたない。そんな可動社会にUberは適応しつつあるように私には思える。

・アマゾンのドローン

また、Uberだけではなくアマゾンの加速っぷりも興味深い。

アマゾンが先日、反響を呼ぶプレゼンテーションを実施した(https://blog.aboutamazon.com/transportation/a-drone-program-taking-flight)。それまで米国で二日間かかっていた配送を、一日に縮めるとしたのだ。そしてそれにはドローンを使うとした。発表されたのは、最新のドローンだった。しかも、これは夢物語ではなく、たったの数ヶ月以内にドローン配送を実現するとしたのだ。

動画を見る限り、これまでのドローン試作機とはちがい、数段レベルアップしている。垂直方向と横方向に自由自在であり、飛行の自由度が格段にあがっている。動画も公開されており、その安定性に驚く。また、AIを使い、さらに効率的な飛行を実現している。ドローンは決まった航路を飛行するだけではない。そのときどきにおいて変化もあるだろうし、あるいは、他飛行物が障害となるかもしれない。安定的な飛行にAIドローンは不可欠だった。

さらに着陸する際にも、どこでもいいわけではない。もしかすると、人間が地上にいて危険にさらせばおしまいだ。さらに、器物を損壊してしまっては、元も子もない。それにもAIが活用できる。インテリジェンスなドローンを実現している。
また、このドローンは一つの懸念を払拭している。それは電線だ。日本はとくにそうだが、街中であれば、複雑怪奇な電線で空中はがんじがらめになっている。それをうまく迂回できるか。できなければ、停電や電波障害の形で、都市にダメージを与える可能性があった。しかし、今回のドローンは、電線類を回避する技術を搭載している。

この先、アマゾンだけではなく、すでに開発が報じられたアリババやグーグル、などの企業が入り混じり、ドローン戦争が加熱している。

・後付とはいえ重要な意味

これは後付でしかないが、ドローンはCSR観点においても重要な役割を果たす可能性がある。それは、環境負荷問題だ。ドローンはバッテリーで稼働する。ということは、すくなくともガソリン車よりも、化石燃料は少なくて済む。

また、完全に電気自動車に変わったとしても、数トンの自動車よりも電力は少なくて済む。人間も不要だから、総エネルギー量は減る。対向車をまつさいのアイドリングも減っていく。環境負荷を考えた際にも有利な意味を持つ。CO2の排出量を減らす手段としても、ドローンが注目されるはずだ。

しかも、ドローンは自律的・自動的な手段として、他事業にも応用できる可能性がある。ドローンを使えば、遠洋漁業において、魚類調査ができる。むやみやたらに舵を切っても、その時間が無駄になる可能性がある。それをドローンに事前偵察させればハズレが減る。これもエネルギー総量低減につながる。

また船舶の損傷発見や、倉庫内警備、山間部の画像撮影など、ドローンの用途は高まっている。

・深センのカフェにて

先日、ひさびさに中国・深センに行ってきた。仕事でインキュべーションセンターをまわるためだ。電気自動車とベンチャー企業がひしめくこの都市の魅力はさまざまな論者が語っているので、私は繰り返さない。

ただ、印象に残った場面を記しておきたい。

深センのオフィス街。昼間にぶらぶらと様子を伺っていると、ドローンの試作機を机に置いて、あれやこれやと議論を交わす若い技術者たちを数組みた。もちろんスーツを着ているひとなどほとんどいない。ポロシャツかTシャツで、なるほど、たしかにアジアのシリコンバレーと呼ばれる象徴を見た気がした。改良点や、機能、インターフェースに、バッテリー寿命。まだドローンには進化ののびしろが残されている。

実用レベルにおける米国の先行、ならびにDJIなど中国メーカーの台頭。そして、日本はこの激流にどこまで対応できるだろうか。私の見た光景は、将来への課題を投げかけている。

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