「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 15(牧野直哉)
今回から「持続可能な調達」を実践するために必要な具体的な調達購買部門のアクションについてお伝えします。一見すると「当たり前」と思われる内容が多いかもしれません。私の30年近い企業勤務経験でも、これから述べる9つの内容が実際に失われたケースは非常に限定されます。例えば、私が社会人となった1990年代は、いわゆるサービス残業は当たり前に上位者からの指示で行われていました。しかし現代、そのような指示を上位者が社内に向けて行えば、非常に大きな問題へと発展するでしょう。時代背景とともに、本音と建前がより建前に近くなっていったと感じています。したがって、この記事をお読みになっている皆さまも、これから述べる内容については世代によって感じ方も異なるはずです。
しかし、内容的には世間一般で言われて内容をできるだけ研ぎ澄ませ、最低限の内容に絞り込んだつもりです。これから述べる9つのポイントについて違和感覚えられた方は、少し認識を変えられた方が良いかと思います。また、業界によっても「持続可能な調達」に対する切迫感は大きく異なっています。確かに業界として先陣を切って積極的に「持続可能な調達」へとかじを切る必要はないかもしれません。しかし、日本国内のマーケットの認識と、グローバルにおける認識のギャップは、「持続可能な調達」に限って言えば、広がるばかりです。そういった大きなギャップの中で、私たちは事業活動を行い、成長を果たし、成果を獲得しなければならない現実は、厳しく認識しましょう。
1.自社に適用される法令の内容と動向を理解し順守している
「法令」とは、国会が制定する法律と行政機関が制定する命令の総称です。自社に該当する法令がどの程度なのか、定かではないのが実態ではないでしょうか?順法経営と訳されるコンプライアンスでは、法令のみならずルール、企業倫理(企業や組織活動においても個人、市民として順守すべき道徳規範)を順守すべきとされています。明文化された法令のみならず、時に個人によって解釈の異なるルールや倫理といった内容まで含めて順守しなければならないのが、非常に対応を難しくしている点です。
日本では、「会社のために」とされる経済犯罪は、企業、個人とも罰則は比較的軽く設定されていました。社員の集団主義、共同体意識のため不祥事がこれまで相次いで明るみにでてきました。東芝の不正会計、三菱自動車工業の燃費不正等、神戸製鋼による検査データのねつ造と、日本を代表する企業の不祥事が続いています。コンプライアンスは、本社から事業部門、子会社、下請けまで企業の理念を共有し、企業倫理を徹底、問題を出やすくする、トップが従業員の声を吸い上げる仕組みが必要です。
調達・購買部門における最初の取り組みとしては、就業規則や社内規定の整備です。業務マニュアルといった社内で決められたルールの順守も含まれます。就業規則や社内規定、業務マニュアルは、多くの企業で既に存在している文書であるはずです。まずは、すでにある文章が、時代の要請にかなった内容になっているのかをチェックします。その上で、従業員にあらためて参照を促したり、浸透度に不安があれば集合教育や理解度のテストを行ったりして、文書で示されている内容が理解されており行動にも反映を確認します。
また、社内で示されている文章をベースにして、それと同じ内容をサプライヤーが理解し事業活動の運営を確認します。「持続可能な調達」の考え方で示される内容は、交渉可能な内容ではありません。サプライヤーが順守できない旨の回答を行ったり、順守できていない状況が確認されたりした場合には、改善を条件に購入を継続するか、あるいは内容によっては取引停止といった厳しい判断も必要です。自社の事業運営に必要だからと「やむを得ない」といった判断で、法令順守できないサプライヤーと取引を継続するのは、バイヤー企業にとって大きなリスクであると理解しましょう。
2.法令違反しない社内外教育や、順守状況の定期的なチェックをおこなっている
この内容は、 1の内容が継続的に保たれている確認を意味します。社内外に対して、定期的に順守状況の確認も行います。順守状況によって、理解されていないと判断された場合は、改めて教育をおこなって、順守意識の啓発を行わなければなりません。これはサプライヤーに対しても同じです。筆者の感覚では、サプライヤー評価を定期的に行っているのは、このメールマガジンの読者の半数程度ではないでしょうか。なぜそのサプライヤーを選定したのか、について文書でその理由が残っていない状況は、適正な調達・購買管理の観点からも好ましくありません。非常に簡単な内容でも構いませんので、新たにサプライヤーとの取引を開始するとき、そして年に1回程度は継続して採用できるかどうかを判断するサプライヤー評価を行うべきです。そして、そのサプライヤー評価の中に、「持続可能な調達」に関する内容を含めて評価項目にします。
今回「持続可能な調達」に関連して、 9つのチェックポイントをお伝えします。これら9つの内容が全て守られているかどうかについて確認するのが、調達・購買部門におけるサプライヤー管理の最低限の内容と理解してください。例えば米アップル社の例では、サプライヤーに十分な教育のリソースがない場合、教育機会を提供して「持続可能な調達」の啓発を行い、その実現を目指しています。大手企業が中小のサプライヤーに対して個別に教育機会を設けるのが難しければ、サプライヤーミーティングで自社の考え方を説明し、サプライヤーに対して異議がある場合には申し出るといった取り組みによっても、一定の効果が期待できます。そういった取り組に加えて、各バイヤーがサプライヤーを訪問した際に、いわゆるQCDや具体的な案件の打ち合わせに加えて、今回お伝えしている9つの項目について確認をするといった取り組みが、「持続可能な調達」実現の最初のステップと言えるのです。
(つづく)