連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。
・自社市場分析
さてここでは、より戦略をブラッシュアップさせるための分析ツールをご紹介します。欠かせないのは、マイケル・ポーターの5-Forcesと、SWOT分析です。
正直にいえば、この二つを紹介するのはためらいがあります。あまりに有名だからです。他の著者も同じように考え、異なるオリジナルな分析方法を開発してきました。しかし、それら有象無象が死にゆくなか、やはりこれら少数の古典だけは生き残っています。そして実際に現場でも活用されています。この意味は重く考える必要があります。
そこで、まず一般的に見られる5-Forcesのフレームワークを見てみましょう。
これはマイケル・ポーターの言葉ではありませんが、私なりに解釈していうと、「常に企業家(起業家ではありません)が意識しておくべき外部要因」です。
● 同業者間の競争:最終製品の競合他社がQCD等において優位性を発揮しようとしてきたり、新商品を投入しようとしたりすることです
● 新規参入の脅威:これまで考えられなかった分野のプレイヤーが参加してくることです。たとえば自動車製造にバッテリーメーカーが参入してくる等々
● サプライヤの交渉力:原材料や特定技術をもったサプライヤが、その独自性と優位性ゆえに交渉力をもち、自社製品の生産量やコストに影響を及ぼすことです
● 代替品の脅威:お客にとって自社製品とはまったく別のものが、購買品になる可能性です。たとえば、テレビではなくスマートフォンを消費しコンテンツを視聴する等々
● 顧客の交渉力:企業間取引であれば特定の企業への依存度が高まる、あるいは、特定の企業が調達量を増やすことによって影響力を高め、販売価格に影響を及ぼすことです
これらはいわれてみれば当然ではあるものの、なかなかうまくできた整理です。これは企業家ゆえに、調達・購買機能としてはイコールのものではありません。そこで、これを調達・購買なりに変更する必要があります。
考えるにもっとも企業として良いのは「明確なものを購入し、ブラックボックスにして顧客に販売すること」です。言葉を替えれば、「わかりやすいものを買って、わかりにくくして売る」となるでしょう。
つまり価格査定しやすい製品を買う、あるいはサプライヤ競争環境を構築できる製品を買う。そして、顧客には価格査定ができない、あるいは交渉すらできないように他社と比較できない価値をつけて販売する。といったことが理想です。要するに、調達・購買を考えると逆になりますよね。
● 同業者間の競争→内部の選定:調達・購買がサプライヤを選定するべきなのに、実際には内部のユーザー部門(設計開発部門等)がサプライヤを事前選定していることです
・ 新規参入の脅威→新規参入の無存在: サプライヤが固定されており、新しいプレイヤーが存在しないことです
● サプライヤの交渉力→サプライヤの独占: 実質的に1社、あるいは数社しか供給できない製品・仕様であり価格交渉等に支障が生じることです
● 代替品の脅威→代替品の無存在: 技術的にアナログ製品からデジタル制御製品に切り替わることでコストが下がる、といった機会がないことです
● 顧客の交渉力→客先指定:顧客が指定する型名やあるいは仕様がどれだけ厳しいのか、そして、それにより特定製品・特定サプライヤのみからの調達となっているか等々
このなかで「内部の選定」は対他部門の分析となります。では、自部門の強み等を分析するものが、SWOT分析です。これは、5-Forcesとはやや異なり、企業家というよりも、部門分析にもそのまま使えます。というのも、SWOT分析とは、外部・内部の情報を整理し、
●強み (Strengths)
●弱み (Weaknesses)
●機会 (Opportunities)
●脅威 (Threats)
に分類するものだからです。これはそのまま調達・購買機能にも応用できます。
さて、さっそく事例を見てみましょう。
ここで問題があります。このSWOTもあざやかに分類できるツールなので、一見たしかに「よく整理できたね」となりがちです。何が問題かというと、それでは整理であって「分析」にはなっていないことです。さらにいうと、次のアクションにつながる発想が生まれないことです。
そこで私がオススメするのは、このSWOT分析を変形させることで、クロスSWOT分析とでも呼べるものです。具体的にはこのSWOTをさらにフレームワークの外に出して、組み合わせるのです。
● 自社の強み&機会:自社の強みを、来るべき未来により活かす内容
● 他社には脅威but自社の強み:他社にとっていれば脅威であっても、これまで蓄積したノウハウ等で強みに転換できるもの
● 自社には弱みbut機会へ転換:自社にとってこれまで弱みであったところ、これを好機として取り組めること
● 自社に脅威&弱みbut最悪回避:自社にとって脅威であり、さらに弱みでもあるが、なんとか最悪の状態を回避できるために検討すべきこと
ここまでやると、何をせねばならないかが徐々にわかってきます。
この節はまだ続きます。
<つづく>