転職を考えない人が読む「転職」のおはなし 5(牧野直哉)

5.実践的転職活動

さてここからは、現在転職をしたいと思っていなくても、来るべきその日への準備を、できるだけ少ない時間でおこなうための具体的な手順をお知らせします。

(1) 職務記述書(Job Description)は3回書く

職務記述書は、転職活動の際に履歴書とともに重要となる、自分の職務経歴を書き記す書類です。転職をサポートしてくれるリクルーターや、就職希望者を探している企業の人事担当者が最初にあなたという人物を判断する書類になります。

転職には、大きく分けて2つのケースがあります。ひとつ目は、募集しているポジションにみずから応募するもの。そしてもう一つは、あらかじめリクルーターに職務記述書や履歴書を提出しておき、募集のあったポジションを紹介してもらうケースです。後者は、ヘッドハンティングなんて呼ばれていた時代もあります。後者の場合、まさに今転職の必要なくとも、あなたの能力に見合ったポジションが市場に出た時に、声をかけて貰えるわけです。このリクルーターからの声がけについては、注意すべき点(後述)もあります。しかし、ある段階で、職務経歴書を作成することで、自分の人生の一部である仕事のキャリアを見直すことは、人生を自分の手に取り戻す第一歩となります。

● 一回目 ~テーマは「自分はなにをしてきたか」

最初に、新卒で就職して以降を中心に、自分のやってきたことを、箇条書きで書き出してゆきます。といっても、思い出せる内容には限界があるし…そんな時には、
1)発信メールの履歴
2)スケジュール帳
といった記録を見直すことで、自分が一体どんなことをやってきたのかを思い返します。私が最初の会社に就職した当初はパソコンなどありませんでした。したがって、たまたま保存していた、就職してから使っている手帳を見直してみました。例えば、こんな具合です。

××××年4月
・入社式
・社長から「石の上にも3年の訓示」。一年目は業務サイクルを覚える。二年目は試しにやってみる。三年目は確信をもって対応し、改善点を見いだす。
・新入社員研修
・ビジネスマナー
・英語集中研修
・現場実習
・×××××××××××××××××××へ配属
・配属部門の××課長から「面白いおかしく仕事をしよう!」と訓示。納得!
××××年3月
・一年目のレポート作成完了。テーマは「×××の海外生産」。
××××年8月
・初の海外出張、3泊4日で、フィリピンのマニラ、セブと香港をめぐる強行日程
・最終日、香港のホテルで寝坊、帰りの飛行機で3時間上司から説教される。前日、私をホテルまで送ってくれた人は、寝坊していない。まったく反論の余地無し
××××年7月
・サプライヤー3社と、設計、工作、品証、調達、営業でコストダウンオフサイトミーティング開催。オフィシャルなセッションが終わってからが有意義な時間。本音をぶつけ合えた場

この段階では、良いことも悪いことも、自分に印象に残っていることを、上記の例の如く、ともかく書き出してゆきます。私は、その当時思っていたこと、考えたことを手帳に書き記していた(斜字部分)ので、そんな内容もあわせて書いていました。

手帳やメールの履歴が参照できない場合は、その当時どんなことをやっていたのかが思い出せないこともあります。私は最初、手書きでこの箇条書きをおこないました。数年経過すれば、いろいろなことを忘れています。メールや手帳を手がかりに、自分の歩んできた道を思い返し、書き記してください。

この手法は、何度か友人に話したことがあります。しかし、そんな書き記すほどの実績は残していない場合はどうするのか、といった質問を受けたこともあります。しかし、この文章を読んでいるあなたには、いろいろな実績を残しているはずなのです。いいですか、絶対になにかあります。この作業の意味は、それまでの人生に向き合うことです。言い換えれば、過去の自分との対峙でもあります。私にとっても、自分はなにをしてきたのか。これから何をしたいのかを考えることは、とても難しいことです。飾らずにほんとうの自分と向き合うためにはどうしたら良いか。結果、良かったこと、悪かった(怒られた)こと双方の、まず事実を記載することを心がけました。事実であれば、書き出せるはずです。このプロセスを経て、魅力ある職務経歴書が作成できないと、この先へ進めません。淡々と事実を、思いついた順でもかまわないので、書き並べてゆきましょう。一つのエピソードから、一人の同僚から、様々なことが思い出されてきます。そうなるはずなのです。

●二回目 ~推敲し、体裁を整える

続いて、書き記した内容をベースに、体裁を整えます。その際に、書き出したものから、エピソードを取捨選択します。取捨選択の基準は、職務経歴書として、あなた自身に興味を持たれる内容であること。そして、興味を持たれ、会いたいと思われ、実際に面接になった段階で、面接者がおこなう質問のネタになるような内容であることです。企業の採油担当者宛の手紙です。心を込めることはもちろんの事、相手にとって興味深い内容でなければなりません。

最初に書き出した内容は、いうなればエピソードの題名です。それぞれのエピソードにおいて、次のポイントについて考えてみてください。

1) あなたは、どういう役割を果たしたのか
2) 役割は、どのような具体的行動によって果たされたのか(あるいは、果たされなかったのか)
3) 行動による結果から反省すべき点はあるか、あるならその具体的な内容
4) 反省点から何を学んだのか
5) 学んだ結果を次の行動にどのように生かしたのか

この五つのポイントは、職務経歴書にすべて記載する必要はありません。しかし、一つのエピソードに対して、4)迄は確実に説明できなければなりません。そして、転職活動も競争です。あなたと同じような候補者と、将来的に競う可能性もあります。そんな競争に打ち勝つためにも、上記の5)までは面接のときに話ができるようになっていることが必要です。そんなことを前提にして、文面をまとめるようにしてください。

<つづく>

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