ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●【新テーマ】社内関連部門とのコラボレーション力

前回までお話したサプライヤーマネジメントは、社外・サプライヤーとのかかわりに関して述べました。調達購買部門は、会社内で市場に直接的に接しています。調達購買部門が接する市場とは、ビジネス関係にあるサプライヤーとの間に存在します。サプライヤーとの関係をどのように構築して、どのように維持するのかについてが、前回までのテーマでした。

そして今回から、一転して社内関連部門との関係について述べることにします。これは次の3つの理由によるものです。

1. 高まった期待への対応

2. 調達購買部門だけで「買う」ことはできない

3. 企業の購買力(バイイングパワー)とは、企業の総合力である

それでは「社内関連部門とのコラボレーション力」の第一回として、なぜこのような考え方が必要なのかについて述べることにします。

1. 「高まった期待」への対応

前号(増刊)と、前々号(本号)で、2012年の調達購買部門で起こった出来事を新聞記事から抜き出して、読み解いた内容をお伝えしました。(有料会員の方は、バックナンバーをご参照ください。無料期間の方は少しお待ちください)私が述べた内容の一つが「広がり高まるサプライチェーン」でした。そこでは、サプライチェーンを管理する調達購買部門への注目度が高まっていることをお伝えしました。

では、どこで高まっているのか。まず考えなければならないのは、顧客です。しかし、調達購買部門は直接的に顧客に接しているわけではありません。社内の関連部門を通じて、顧客にモノやサービスを提供する一機能を担っています。したがって、最終的には顧客のニーズである、高まったサプライチェーンへの期待に答えるために、直接顧客とコンタクトを持っている社内関連部門からの期待に添う必要があるのです。

2. 調達購買部門だけで「買う」ことはできない

このメールマガジンでも何度か書いていますが、普段の生活で、我々が生きるためにおこなう「買う」と、企業がおこなうそれとは大きく異なります。個人の場合、購入に関する意志決定は、同じ人がすべておこないます。当然、買うことで発生する責任も、すべて個人持ちです。そして、多くの代替案が存在し、最終的に「買わない」という決定を下せるのも、個人でおこなう「買う」ことの持つ特徴です。

一方、企業内の調達購買部門でおこなう「買う」は、細分化された権限によって、いくつかの意志決定が総和しておこなわれます。そして「買わない」という選択肢をもっていません。調達購買部門が、購買力を発揮するためには、関連部門の意志決定がまずおこなわれる必要があります。調達購買部門として、より良い、企業の業績に貢献する購買を実現させるためには、関連部門によっておこなわれる意志決定が事前におこなわれなければなりません。この「事前に」の部分が、円滑に速やかにおこなわれることが、有利な購買実現への第一歩です。

しかし、この「事前に円滑におこなわれた意志決定を受けて調達購買が買う」という事実は、過去に誤った活用をされてきました。仕様が決定されない、製造業であれば図面が書かれていない、受注量が確定されない、だから有利な購買が実現できないといった理由・言い訳としての活用です。しかし、このような他部門の業務によって「できない」と結論づけることが、なにかを産むことはありません。そして、最終的に調達購買部門は、条件がそろわなくても「買わない」との選択肢を持ちえないのです。で、あるならば、調達購買部門としての責任を全うするために、「なぜ、購買のための事前準備が円滑に、速やかにおこなわれないのか」を、関連部門と協議し、問題解決を図ることが必要なのです。

3. 企業の購買力(バイイングパワー)とは、企業の総合力である

購買力(バイイングパワー)の源泉について考えたことはありますか。調達購買部門として、調達購買戦略をつくり、実践する上で、企業が持つ購買力は大きく関係しています。その購買力を決定する要因とはなんでしょう。

確かに、購買量はもっとも大きな要因です。購買量が多ければ、それだけ購入単価も低くできます。しかし、購入量は調達購買部門だけで拡大することはできません。2項では、調達購買部門だけで買うことはできない事実を、あえて再び述べました。多くの部門によっておこなわれる買うためのいくつかの意志決定に求められるものは整合性です。個々の意志決定の結果に矛盾がなければ、調達購買部門として良好な条件をサプライヤーから引き出しやすくなります。いや、引き出さなければなりません。

サプライチェーンを和訳すると「供給連鎖」となります。連鎖とは、物と物とをつらねる鎖であり、鎖のようにつながること、そういうつながりを意味します。調達購買部門は、購買に関する意志決定の連鎖の末端に位置し、調達購買部門の先にはサプライヤーがいます。事前段階で、他部門によっておこなわれる意志決定の矛盾は、残念ながら調達購買部門で結実し、購買力としてサプライヤーに提示されてしまいます。当然、そういった矛盾を、サプライヤーとの調整で解消する努力も、調達購買部門には求められます。しかし、まず目指すべきは、矛盾のない意志決定の総和です。購買量と矛盾のない意志決定を合わせたものが購買力なのです。

この3点を前提にするとき、調達購買部門として社内の関連部門との関係性も、とても重要になってきます。そこで、このテーマでは、

(1)一般的な関連部門の機能を定義

(2)調達購買部門との関連性を指摘し、どのような関係を築くか定義

します。各部門の定義とは、なかなか難題です。企業の文化が如実に表われますし、企業によって千差万別となるためです。できるだけ、具体的な例を用いつつ、述べてまいります。

<つづく>

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