7月7日トークライブ「これからの夢を語ろう。それは、これからの日本と調達・購買についての夢だ」で話したこと。坂口編パート1(坂口孝則)

・見えてきた日本の状況

トークライブ「これからの夢を語ろう。それは、これからの日本と調達・購買についての夢だ」in 日本能率協会大阪2012年7月7日

今日はお集まりいただきありがとうございます。さて、何を話そうかと思ったんですが、まずはこの図からお見せしたいと思います。私がいつも出している図ですね。私のセミナーにお越しの方はご覧になったかもしれません。

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日本の企業の売上高の推移です。リーマンショックが顕在化した2009年は日本企業全体の売上高が低下してしまったのはご存知のとおりです。しかし、私の問題意識は次の図にあります。売上ではなく、利益はどうなんだ、と。

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そう、利益も日本企業全体が下がっているかというと、そうではないんですね。非製造業はもっとも全体の利益が落ち込んだときに、微増すらしている。しかし、製造業の利益は大幅に下がっているんです。リーマンショックではなく、「製造業ショック」ともいうべき状況だったわけです。製造業に属している人は、これだけ大変だという認識を持たねばならない。これが私の昨年のテーマでした。

しかし、この手の話をすると、質問があるんです。「しかし、製造業で儲かっている会社もあるじゃないか」と。たとえばスマホ向けのデバイスを製造なさっている企業は儲かっている。切削機械などもそうじゃないか、と。だから、私は講演などでは、「製造業全体が厳しいのは事実。しかし、例外は生産財だろう」と申し上げてきました。つまり、消費財であれば、価格競争に巻き込まれやすい。つまりBtoC商品であれば、価格低下により利益は低下せざるをえない。ですが、アッセンブリメーカーに納入する生産財であれば価格競争に巻き込まれにくいのではないか、と。

実際に、設備系、機械系などの好調さは報道されています。また、小型ノイズフィルタだとか、高機能電子部品を生産しているところの好調さも報道されています。完成品を生産しているメーカーがあれほど窮地に立たされているにもかかわらず。

そこで調査してみると、面白い結果となりました。

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この象徴となるのは、情報化関連の商品や製品だと思いますので、実際に調べてみました。データ元は経済産業省の「生産・出荷・在庫指数」からです。これは、どうでしょうか。リーマンショックにかかわらず落ち続けているといえそうです。もちろん、リーマンショック後は微妙に回復していますけれども、下落基調であることは疑いない。

そこで、私が申し上げていた生産財を対照としました。

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やはりそうなのか……という結果でしたね。これは生産量で比べたものであり、利益ではありません(紐付くデータが無い)。ただし、生産量から見てみるに、やはり消費財と生産財では大きな違いがありそうです。結果は繰り返しになるものの、消費財は厳しく、生産財は生産の回復とともに、まだなんとかやっている。もちろん、これが将来にわたって持続するかはわかりません。生産財を作ってさえいれば安泰ということはありえないでしょう。しかし、現状ではこのような結果となっています。

では消費財を生産しているところが、いきなり生産財メーカーになることはできない。これはビジネスモデルを転換する話になるわけですけれども、そこまではさすがに私の手に負えません。今回は、調達・購買の立場から、考えうる施策についてお話しましょう。

・材料調達の重要性と物流改善の重要性

ここでヒントを二つ申し上げます。一つ目は材料の改善で、これも私がよくお話していることです。

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ここで、「GDP比鉱物性燃料輸入額率」を出しています。お詳しい方もいらっしゃるでしょうが、この「鉱物性燃料」とは、いわば原材料とか資源などを想像してください。輸入額を単純にグラフにせずに、GDPと比較しているのは理由があります。

たとえば、ある年に1兆円の「鉱物性燃料」を外国から買っているとしますよね。翌年に2兆円になったとします。しかし、それは経済成長ゆえだとしたら問題がないわけです。まあGDPが1年で2倍になることはないでしょうけれど。ただ、GDPとの比をとることで、「鉱物性燃料」の値上り値下がりを近似表現しようとしています。

そこで次に出したいのがこの図です。

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これを見てください。法人企業統計で調べた「売上高外部調達コスト率」と比較すると、ほぼ類似した動きをする。これって、企業のコスト率は単純に原材料の影響を受けているだけではないのか(笑) これまで調達・購買コンサルタントたちは、「何百億円のコスト削減を達成した」とかいっていたけれど、ほんとうか(笑) その他のコストが値上って、P/L(損益計算書)には反映していないのではないか。

だから、原材料調達は改めて重要なテーマだと思いますね。日産自動車さんが、原材料領域を特化して改善しようとしているのは、その通りだと思う。同社は材料の歩留まり改善プロジェクトを大々的にやっている。材料価格の上下に影響されてしまうのであれば、せめて材料使用量を減らすしかありませんからね。あとは、これまた古くからのテーマですけれど、少しでも安価材料を海外に求めるしかないでしょう。

そして、今回お話したいことがもう1点あるんです。

それは物流なんですよ。意外かもしれません。世間では「調達物流」といっていますが、なかなか調達のひとたちは物流に注目しない。物流子会社っていうのは、出世コースから外れてしまったひとたちが出向するところで……。まあ、やめておきますが、花形の部署ではないイメージがある。

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これ、横軸に流通業の労働生産性上昇率をもってきています。そして縦軸が各国の潜在成長率です。これ、すごい相関ではありませんか。要するに、流通業といっても物流領域といっても良いのですが、それらがどれだけ生産性を改善しているかということと、成長率とは、ほぼ同じ意味を持つということです。

直感的にいいましょう。これは、物流効率が良いことが成長につながるという意味です。そして、これ各国の成長率と相関を計算していますけれど、各企業の利益率を見ても同じことが言えるんですね。物流がすぐれた企業は利益率も良い、と。

私はこれはかなり示唆的なことだと思いました。というのも、もちろん良い製品を開発・生産することは否定されるべきことではありません。ただ、重要なのは、その製品を「買いやすく」することなのです。amazonはワンクリックで商品を買えるようにしています。消費者はすごく買いやすい。その「たやすさ」こそが売れる理由なんだと。

思うに、私たちの「ほんとうの調達・購買・資材理論」も同じだと思うのです。中身を充実させることは怠ってはいけないけれど、やはり同時に加入しやすくしなければいけない(牧野先生うなずく)。それこそワンクリックで加入できるとかね。いろいろ考えさせられました。

まずはこのテーマをお話しました。つづきは、また別のテーマをお話したいと思います。

<つづく>

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