短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)

この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第16回】会社について調べる-決算書つづき

サプライヤ等の決算状況を調べた後に、相対比較するための経営指標データベースを紹介しておきます。

□全国企業財務諸表分析統計(帝国データバンク)
→役に立ちます。理由としては上場企業だけではなく、中小企業までの10万社以上標本としており、かなり統計としては優れているからです。また、都道府県ごとに各種財務指標を載せています。すべての業種が載っているわけではありません。ただ、建設業や製造業などに従業するひとは活用できるでしょう。建設業のように、労働集約型かつ地域間の労務費差があるような場合は、全国平均が役にたたないケースがあります。そのような際には重宝します。

□小企業の経営指標(日本政策金融公庫)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_findings2.html
→少人数の企業に特化した面白い指標数類です。同規模会社の調査時には役に立つでしょう。これも業種ごとの経営指標について調べることができます。

□TDBキャッシュフロー分析統計(帝国データバンク)
→キャッシュフローについて分析したい場合は役に立ちます。キャッシュフロー計算書は本来であれば、上場企業しか作成しませんので、上場企業の分析が主です。しかし、本書では、上場企業だけではなく20万社を対象としキャッシュフローの分析統計を掲げています。

□TKC経営指標(BAST)(TKC)
http://www.tkc.jp/tkcnf/bast/sample/
→TKCの出している中小企業の経営指標です。もともと会員のみのサービスですが、ひろく知らしめるために、要約版は公開されています。面白いのは、業種ごとの黒字企業割合などが表示される点です。一人あたり売上高や一人あたり人件費も記載されていますので、現在の雰囲気をつかむことができます。

*そしてさらに必要なこと

ところで私はある方から聞いて印象的な話があります。決算状況を調べると同時に、かならず現地に足を運びなさい。しかも、できるだけ雨の翌日に行きなさい、と。なぜかというと、メーカーなどでは、調査者がやってくるとわかったら、嘘でも稼働しているフリをする、と。しかし、雨の翌日なのに、地面が傷んでおらずトラック跡などがないケースは、前日の不稼働を見破るのだ、と。もちろんこれだけでわかるわけではないでしょう。

しかし、この方は、書類だけではなく、現場で確認する大切さを伝えたかったのだとはわかります。なにより、対面と実地調査の必要性です。決算状況が悪いからといって、すぐに倒産するわけではありません。また、決算状況が良いからといっても、倒産する可能性があります。

取引先会社の倒産。そのリスクをゼロにはできませんが、事前察知する確率をあげることはできます。次にあげるのは、具体的な数として表現が難しい項目です。ただ、これらも決算状況とあわせて把握することで、調査に厚みが出ます。大きく、ものづくりとサービスにわけて説明します。

1.商品の付加価値
(ものづくり)主要製品は適正な価格で販売しており、支える技術があるか
(サービス)主要サービスは市場から適正価格で評価されており、参入障壁が高いか

2.生産性
(ものづくり)生産性は高いか、無駄なコストがかかっていないか
(サービス)生産性は高いか、無駄な人件費等が生じていないか

3.排他性
(ものづくり)海外勢の安価製品にシェアを奪われていないか
(サービス)競合他社のサービスに顧客を奪われていないか

4.将来性
(ものづくり)常に新技術に投資を行っているか
(サービス)現在のビジネスモデルに安住せず新サービス開発を行っているか

5.安定性
(ものづくり)安定顧客が存在するか
(サービス)顧客のリピート率は業界平均以上か

これら、やや定性的な項目も含めて調査してみましょう、これは倒産事前察知ではなく、会社の強み弱みを把握することにもつながります。

【第17回】会社について調べる-決算書さらにつづき

次に上場企業の場合です。これは明確で、EDINET(http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/)を活用してください。これは金融庁がやっているサイトで、金融商品取引法に基づく、有価証券報告書等の開示を行うものです。インターネットの普及までは、新聞などがまとめてくれる情報を読む以外は、簡単にアクセスできませんでした。しかし、上場企業に限っていえば、いまでは自由に閲覧できます。

ただ、おなじく行政のサイトはわかりにくいため、手法を丁寧に記しておきます。
□「書類検索」から「書類簡易検索」を選択
□「決算期/提出期間を指定する」をクリックし必要な時期を選択
□「現在指定している検索条件」の「提出者/発行者/ファンド」のところに対象者(社)を記入して検索

このとき、できるだけ曖昧に検索するようにしてください。というのも、これは正式名称でなければならないからです。たとえば、「テレ朝」ではなく正式名称は「株式会社テレビ朝日」です。さらに、ここの業績を見ようと思えば、「株式会社テレビ朝日ホールディングス」という持株会社が有価証券報告書(決算書のことと思ってください)を提出しています。だから、もういっそうのこと「テレビ」と検索すればいいのです。

なお参考までに申し添えておきます。決算書をいくつかご覧になった方であればおわかりのとおり、とにかく決算書というのは読み解くのに骨が折れます。もちろんしっかり見ると項目は網羅されているのですが、どこに何が書いてあるかは各社によってまちまちです。そこで、登場したのがXBRLです。XBRLは、このEDINETでも頻繁に登場し、決算書のPDFだけではなく、XBRLもダウンロードできるとあります。

このXBRLとは、決算書のそれぞれのデータを統一しようとするものです。専用のソフトを使えば、決算書の各種データを抽出してくれ、その後の分析や加工がやりやすくなります。ご興味があるかたは、専門書もありますのでチェックしてください。

*Yahoo!ファイナンスの活用法

なお、実務的に使いやすいのは、Yahoo!ファイナンス(http://finance.yahoo.co.jp/)です。自動的に各上場企業の業績をデータ化してくれています。
□トップ画面から検索銘柄を入力し「株価検索」をクリック
*もとは株式市場の銘柄検索のため、このような名前になっています
□検索結果から対象会社をクリック
□会社名の下あたりに「企業情報」を選択
□「単独決算推移」あるいは「連結決算推移」を選択

これで3年分の決算推移を把握できます。EDINETで実際の決算書を調べた場合と異なり、代表的な指標のみです。ただ、損益計算書のうち、売上高や営業利益、経常利益、当期利益などは網羅しています。また、貸借対照表については、やや寂しいものの、総資産、自己資本、有利子負債ていどはわかります。用途にあわせてご使用ください。

*海外企業の決算書を入手するには

これからはグローバルビジネスが基本ですから、調査によっては海外企業の調査を担当するかもしれません。また、日本のトップ企業と、たとえば米国企業の財務体質などを比較するケースもあるでしょう。そのようなとき、海外企業の決算書入手方法は大きく二つあります。

□EDGAR(https://www.sec.gov/edgar/searchedgar/companysearch.html
→米国SEC(米国証券取引委員会)が運営しています。日本でいうEDINETと考えてください。この「Company Name」に会社名を記載いただくと検索できます。

ただ、あえていうと、曖昧検索ができるのですが、海外企業の場合、自分が探したものが、ほんとうにその企業のものか自信がもてない場合もあります。そこで実際は、次の方法が無難です。

□各企業のサイト
→「自分の探したい企業名+IR」で検索してください。IRとはInvestor Relationsの略で、投資家向けサイトを探せるはずです。そこには、日本企業のホームページがそうであるように、決算書等が掲載されています。

なお、英語の決算書などを見ても、あまりに難しければ、PDF内から「Profit and Loss」(損益計算書)、「Balance Sheet」(貸借対照表)と検索してみてください。概要のみであれば、米Yahoo! Finance(http://finance.yahoo.com/)はやはり使えます。企業名を入力後、「Search Finance」をクリックし、「Key Statistics」を選択すれば、Income StatementとBalance Sheetの概要を確認できます。

<つづく>

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