コンサルタントがやってきた!(牧野直哉)
私は自社の生産混乱収束を目的としたプロジェクトに参加したことがあります。在庫は増加傾向なのに不足している部品がある。思うようにものづくりができない。そんな中で、外部からコンサルタントを迎え、業務改善活動が始まりました。
そして、最終的にそのプロジェクトは頓挫します。理由は効果が数値化できなかったこと。プロジェクトによるメリットを社内のプロジェクトオーナーに納得してもらえなかったのです。道半ばであったために、私は残念でなりませんでした。しかし、その道のプロであるコンサルタントとの一年にも及ぶセッションは、私自身にとって大いなる刺激的でした。そして、その後現在まで続く、調達・購買・資材への関わりへ大きな影響を与えています。ここで、いくつかの印象的かつ具体的な活動の様子をご紹介したいと思います。
1. 「定義は?」
会社とは、知らずのうちに社内でしか通用しない言葉を使うものですね。それが会社へなじんだ証でもあり、疑うことなく使えば広く社会では通用しない「社畜」への第一歩です。
プロジェクトの初期段階では、社内の業務フローを細かく説明しました。その説明の際に、社外の方への説明と思いつつ、無意識のうちに社内用語が出てしまうわけですね。また、一般的な用語であっても内容を正しく理解するために、何度も「その言葉の定義は」との質問を受けました。そして、定義をプロジェクトメンバーで共有して話を前に進めるわけです。
私はここで二つの気づきを得ます。
一つ目は、社内での会話で使われる言葉は同じであっても、意味が少しずれている事がある。その「ずれ」とは、ほぼすべてのケースで自分、自部門、自社の都合の良いように解釈されていること。二つ目は、定義を明確にするプロセスは、まさに相互理解が実現していくプロセスであることです。あぁ~なるほどね、そういう意味だったのか。そんな言葉が飛び交います。そして理解し合ったもの同士は自然に笑顔になります。今、思い起こすと意味がわかったのとは違います。相手の言葉に込めた「意思」を理解したわけです。当然、意味のズレによる溝がなかなか埋まらない場合もあります。その場合は、次のルールが非常に有効でした。
2.「論理的に」
これを別の言葉で表現すると「声の大きさは関係ない」ということになります。少なくとも、プロジェクトメンバーの年功序列による発言力の違いは無くなりました。声が大きいと論理的でないということではありません。たたみ掛けたり、まくし立てることで相手の発言を奪い、結果「合意」とみなされることがなくなりました。
最初の例も、二つ目の例も、当事者だけではなかなか実現しないものです。そこで中立的にコンサルタントが登場するわけです。時には盛り上げ、時にはたしなめる。絶妙な「定義は」「論理的に」とのシンプルな突っ込みによって、調達・購買プロセスの全貌が明らかになってゆきました。
ここで、コンサルを活用した業務改善では必ず発生する「抵抗勢力」について、考えてみたいと思います。
調達・購買部門に外部からコンサルタントが入って改善活動を行なう場合を想定します。改善する側のメンバーにとって、改善する側に入れなかった人は「選ばれなかった」との理由で、抵抗勢力になる可能性があります。単純に言ってしまえば「ひがみ」ですね。改善活動に携わることになったメンバーにすれば、迷惑な話なのですけどね。選ばれた/選ばれなかったとの差が、活動への協力をする・しないに大きな影響を及ぼすわけです。しかし、私が経験した活動とは異なるアプローチで、この単純かつ根の深い問題を断ち切って大きな成果をあげた活動があることを知ります。
OA機器、パソコン周辺機器を製造するメーカー、仮にA社としましょう。昨年秋にA社の改善事例発表会へ出席できるチャンスがありました。その会社では、バイヤー企業側だけでなく、サプライヤーにもコンサルフィーを負担させ、改善活動を共通のコンサルタントのもとで実践していました。その事例発表会での事です。
事例を発表する前に、バイヤー企業側の担当者がサプライヤーの概要を説明します。きっとバイヤー企業側でサプライヤーを担当しているのでしょう。自信に満ちて、誇らしげに自ら担当するサプライヤーを紹介する姿が印象的でした。バイヤー企業が取引するサプライヤー全社がコンサルティングを受け入れているわけではありません。すべてのバイヤーが壇上で話をしたわけではないでしょう。発表したのは合計6社です。6名のバイヤーがサプライヤーを紹介したわけです。同じメソッドに基づいて、6名のバイヤーが異なるサプライヤーとコミュニケーションをとりつつ改善プロジェクトが進行する。メソッドそのものは、有意義なものです。それを自社に、担当するサプライヤーの実情に合わせ、落とし込むことが難しい。しかし6名が落とし込みの苦労を共有し、お互いの創意工夫をシェアすることができたら、バイヤー企業の調達・購買力そのものが大きく改善したでしょう。そして抵抗勢力に対しても大きな力を発揮したでしょう。
抵抗勢力の一番簡単な定義は「仲間はずれ」です。しかし同じプロジェクトに何名もバイヤーが入ってしまっては、船頭多くして船山に上ることになってしまいます。メソッドは共通で、サプライヤーが異なり、複数のバイヤーが各サプライヤーと業務改善を進めるとは、調達・購買部門が推し進める業務改善の一つのベストプラクティスといえます。サプライヤー毎にオーダーメードで改善案をつくるわけです。多くのバイヤーをコンサルティングへ参加させることでバイヤーの抵抗勢力化も防げます。ちょっと自分が経験したコンサルティング活動と比べ、かなりうらやましいとさえ思えました。
私が取り組んだ業務改善活動は、約一年で大きな成果もなく終わりを迎えることになります。フェアーでフラットな関係をベースにしたサプライヤーマネジメントを唱えたことに対するプロジェクトオーナーからの強烈な一言でした。
「なんでそんなにサプライヤーにへりくだらなきゃいけないのか?!」
とても歯がゆく感じたことを、今になっても忌々しく思い出します。なぜかと言えば、私は一言も言い返すこともできなかったんです。「へりくだる」と指摘されて「それ違います」とはいえなかったのです。それがより一層悔しさを増幅させていました。しかし、数年間の時を経て、A社の改善事例発表会で聞いたある発表者の言葉に、やっぱり「へりくだる」ことではなかったと確信を持つことができました。
「何でも相談して意見の交換もできた、そんな風に仲間のように一緒に仕事をしたのは、40数年の営業経験の中で初めてだった。A社には感謝の気持ちで一杯です」
今だったら「へりくだる」のではありません、「仲間」として一緒に歩んでゆくんです、と言い返すことができます。こんな言葉をサプライヤーの営業マンからもらえる業務改善プロジェクトが存在するんです。私の今の大きな目標の一つです。私が担当して取引をするサプライヤーの担当者には皆「仲間」だと感じて欲しいなと、心の底から思っているのです。