ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
バイヤーのためのプレゼン論 3 ~なぜプレゼンをするのか
前回のお話では、普段読者の皆さんがバイヤーとしてサプライヤーの営業マンへ伝えていることを、プレゼンすれば良いとしました。しかし、実際にプレゼンの場面では、別に特別なことをしなくてもいい、ということではありません。
普段何気なく行なっている話と差別化するために、話をする目的や、話の骨子を要旨としてまとめる必要があります。この要旨は、例えばバイヤーの出張を想定しても、いろいろな内容が思い浮かびますね。新規に採用するサプライヤーの場合、なにかトラブルの処理で出向く場合、なんらかのきっかけによる表敬の場合、もちろん交渉事の場合もあるでしょう。どのような場合でも、
「どんな話をしようか」
ということ考えることを最初に行なうのです。私の場合は予めメモに残します。最初の段階は手書きです。普通のノートに思いつくことを箇条書きしてゆくのです。「普通のノートに書く」ということにたどり着く前には、様々な手法を試みました。アイデアプロセッサー(マインドマップとか、他にもフリーのソフトも多数あります)と呼ばれるソフトを使ったり、情報カードや付箋に書き出してみたり。最終的に一番自分の思考法に一番しっくりしたのが、普通のノートへの手書きだったのです。
これは、例えば現在月に一回の割合で行なっている調達・購買「私塾」の準備においても、業務上週に一回行なっているグループのミーティングの準備でもまったく変わりません。私の経験から申し上げれば、手書きが一番手軽なのです。例えばマインドマップの場合、あくまでも私の場合ですけど、マインドマップを作ってしまって満足しちゃうんですね。実際にソフトの操作も覚えないといけないし、見た目も凝ってしまったり……方法が目的化してしまったりするわけです。もちろん、数あるマインドマップ作成ソフトで行なうことがしっくりいく方もいらっしゃるでしょう。ソフトによっては、作成内容がそのまま他のソフトのデータに転用できますし便利ですよね。そういうツールを活用することを否定するつもりは毛頭ありません。全然アリです。
ここでの方法論は、人によって大きく異なるはずです。みなさんもご自分のもっともしっくりくる方法を見つけ出してください。自分にとって最良の方法が見つかれば、プレゼンに限らず、様々な局面での準備が全く苦ではなくなります。
この写真(詳細がわからないように少しぼやけてます、ごめんなさい)は、実際に先月私塾の準備に書き出した内容です。最初は、普通のシャープペンでとにかく頭に浮かんだことを書きます。写真では、シャープペンと赤・青のボールペンで書いたことがわかります。これは、赤は二回目の見直し、青は三回目の見直しを意味します。このときのテーマは「交渉論」の第三回目でした。そして、このノートの記述を元に、実際に私塾の講義で使用するパワーポイントのスライドの作成を行ないました。このケースでは、既に交渉論としては三回目の講義であり、これまで数ヶ月に渡って考えてきたテーマでした。従い、赤とか青の部分が少ないですね。それだけ、自分の頭の中では、伝えたい内容が固まっていたわけです。
私塾は30~40名を相手に行なう講義でした。また、プロジェクターや、スクリーンという設備もあることが予めわかっています。故に、パワーポイントのスライドという手段を使って表現したのです。これが仮に、数名の勉強会であれば、表現方法は全く異なったものになったでしょう。写真のノートの内容を参照して、A4一枚のサマリーを作成したかもしれません。将来的に同じ内容を話すときにはどうするか。既に一回講義としておこなった内容なので、次回行なう場合は、数名でも一回作成したスライドを使うかもしれない。いろいろな要因に左右されるので、ケースバイケースです。
プレゼンテーションとは、どうしても聴衆の前で話をする部分にポイントを置きがちです。または、パワーポイントのスライドの作成に重点を置いてしまう。しかし、違います。そもそも重要なのは「どんな話をしようか」です。この部分がしっかりしていないと、どんなに煌びやかなスライドを作成しても「相手に伝わらない」という残念な結果が待っているだけです。仮に、相手に伝わらなかった原因は何なのか。大概伝達方法であるプレゼンへの目が行きますね。でもほんとうでしょうか。そもそも伝えたい内容が曖昧模糊とした内容ではなかったでしょうか。そのような視点も必ず必要です。
私はWindow派なので、スライドの作成は、パワーポイントを使います。あくまでもツールです。最近Office2010を購入したのですが、様々な見た目を良くする機能が追加されています。しかし、それはプレゼンとしては非常に些末な話です。ポイントは「どんな話をしようか」というテーマ作りと、テーマをいかにして聴衆に理解してもらうか、その構成作りにあるわけです。
そして、プレゼンという方法を活用する意味です。これは、その場の主導権を持ちやすくなることに他なりません。今日この場が持たれた意味を自ら最初に話をしてしまうのです。これは「言ったもん勝ち」とも言います(笑)。出張に赴いたら、まず自分達の目的を事前に送付したアジェンダに基づいて説明する。丸一日の訪問先に滞在するような場合でも、A4一枚にアジェンダの内容をまとめ、最初に説明してしまう。特に、潜在意識の中で買い手の立場が強い日本国内では、バイヤーがこれを行なうことで、ほぼ主導権をとれるはずなのです。このような目的を考えるとき、プロジェクターを兼ね備えた会議室であったら、最大限に活用すべきです。
プロジェクターを自分のPCと接続します。自ら作成したスライド(メモをポイントだけ箇条書きしたものを投影しても全然構わないと思います)を、スクリーンの横に立って、自分で説明する。この状況は、スクリーンの横に立ったプレゼンターと、席に着く聴衆となりますよね。この立場を一回作ることが、その先の様々な業務の中での主導権に大きく影響するのです。言う・話をする立場にまわり、そのことが主導権を握ることに繋がる。これがプレゼンを行なう最大のメリットになるのです。
<つづく>