ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・ほんとうのコスト分析のやりかた(前回の復習から)

*絶対に役立つ「コスト分析のやりかた」です。全3回で、今回は2回目。周囲のバイヤーを引き離す知識をお伝えします。

バイヤーは価格を決定するプロフェッショナルである。

いや、これは正確ではないかもしれない。「バイヤーは価格を決定するプロフェッショナルであるべきだ」が、実際はそうなってはいないからだ。相見積りでサプライヤー同士を競わせるくらいしかできていないバイヤーが多い。

それではいけないと、私はこの「ほんとうの調達・購買・資材理論」などで、価格の妥当性を検証するやり方について述べた。これは前回の復習になってしまうけれど、コスト分析には二つあって、「コストドライバー分析」と「コスト構造分析」だ。

1.「コストドライバー分析」:調達実績データを利用。見積価格に影響を与える要素(コストドライバー)を抽出し、それと価格の関係を見る。要素と価格がどのように関係しているか、近似線をひく。それによって調達品の価格の妥当性を見る。

2.「コスト構造分析」:製品を、一つひとつの要素に分解していって、各要素の絶対値を積算していく方法。たとえば、製品を「材料」「加工」「その他経費」「利益」と分解し、それぞれの要素を計算し、「この製品がいくらであるべきか」を明らかにしていく。

これまで私の書くものはどちらかといえば、「コスト構造分析」に寄ったものだった。そこでこの連載では、「コストドライバー分析」について述べるという話をした。

前回は、まずこのような例をあげた。製品AからEまである。これらの製品は、何かの部品を単純に組み立てるものだ。だから、価格は、組立部品点数に比例的になることは容易に想像できる。

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上の図はX軸に組立部品点数を置き、Y軸に価格を置いたものだ。まずエクセルでグラフ化し、近似直線を引いてみよう。

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そうすると、「見積価格=組立部品数×6+22」という式を導くことができる。これは一つの要素だけが価格を決定づける場合だ。もちろん、複数の要素が価格を決定する場合も、やり方がある。

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上記の例では、材料wt(材料の重さ)と組立部品数が、価格に影響を与えているような場合だ。このようなときにはグラフから近似直線を作成するのが難しいので、「回帰分析」という機能を使う。

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同じく、「データ」から「データ分析」、そして「回帰分析」という機能を使えば下のような結果を導ける。

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この回帰分析の結果として表示された「切片」「X値1」「X値2」が、コストドライバーの式を求めるために使える。

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「X値1」が「材料wt」の、「X値2」が「組立部品数」の、それぞれ係数になる。切片を考慮して、このコストドライバー線は、「見積価格=材料wt ×0.637655+組立部品数×0.678508+8.738899」であることがわかった。

・コストドライバー線の精度確認方法

さて、前回のおさらいをざっとしてきた(前回の連載もご参照のこと)。では、このコストドライバー線っていうのは、どれくらい「正しい」ものなのだろうか。分析するのはいいけれど、結局それが使えないと意味がない。

たとえば、最初の例題で、私たちは「y(見積価格)=x(組立部品数)×6+22」という式を導いた。これってどれくらい正しいのだろうか。

ここで、統計の理論的な説明は省くけれど、これからいう二つの数字を比べてほしい。

  • 一つ目が、「見積価格」と「理論見積価格」の差の二乗の和

  • 二つ目が、「見積価格」と「理論見積平均価格」の差の二乗の和

もうわからない? 丁寧にやるから、ちょっとお付き合いを。

まず、一つ目だけど、これは実際の価格に対して、求めたコストドライバー線による価格はどうなっているかを調べるもの。たとえば、製品Aでは組立部品数が1で見積価格は30円(円でもいいしドルでもよい)だった。それに対して、コストドライバー線は、「y(見積価格)=x(組立部品数)×6+22」だったから、理論上は28円にならなきゃいけない。実際の見積りの30円と、理論価格の28円の差の二乗は4だよね。それらを計算していく。

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それらを合計すると40だ。まだ、これが意味することをわかる必要はない。

それで、次に行こう。次にやってほしいのは、その理論価格の平均を求めてほしい。

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理論見積価格の平均は40円だった。それを、実際の見積価格との差を計算し、あとは同じく合計する。そうすると、400という数字が出てきた。

それで、さきほどあげた二つの数字は、

  • 一つ目が、「見積価格」と「理論見積価格」の差の二乗の和

  • 二つ目が、「見積価格」と「理論見積平均価格」の差の二乗の和

前者が40で、後者が400ということになる。で、ここまできて何をするかというと、

1から、40÷400を引いてほしいんだ。これは数学的には「決定係数を見る」っていうんだけど、その意味は興味がある人のみ調べていただけたらと思う。そうすると、0.9になる(=1-0.1)。この0.9という数字こそが、このコストドライバー線がどれだけ正しいかを証明する数字だ。

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やや直感的な解説になってしまうけれど、この決定係数というのは相関(何かと何かがどれだけ関係性をもっているかを示したもの)を二乗したもので、1に近いほど正しさは高まる、と考えていてほしい。数学的に「R2」と呼ぶときもある。

で、1に近いほどコストドライバー線としては良いことになるわけだ。じゃあ、どれくらいの数字がなければいけないか。これは絶対的な公式はない。だから私見をお許しいただければ、0.8以上あれば合格と考えている。

よく、「ウチにはコストテーブルがあります」というバイヤーがいて、そのコストテーブルを見せてもらうときがある。でも、残念ながら、そのコストテーブルに書かれているコストドライバー線は、この決定係数が0.5もないことが多い。そもそもコストテーブルとかコストドライバー線として考えるには無理があるものを基準にして、サプライヤーと交渉しているわけだ。これはかなり危険だ。ぜひ、みなさんも自分自身のコストドライバー線の決定係数が0.8以上あるかを確認してほしい。

ちなみに、こんな面倒な計算をしなくても、エクセルを使えば簡略化できる。

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グラフ上からコストドライバー線を作るときに、「グラフにR-2乗値を表示する」を選ぶだけだ。そうすると、R2=0.9と表示され、結果は手計算と同じになる。今回の連載では、いちおう理論的にも説明しようと思ったので、手計算のやり方を伝えた。ただ、実際はエクセルから一発で表示することが多いだろう。

なお、これは重回帰分析でも同じで、さきほどの図にもR2はちゃんと載っている(あえて説明しなかったが)。

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このように、コストドライバー線の精度を確認する方法について説明してきた。結果だけを繰り返せば、決定係数が0.8程度を超えていればコストドライバー線としての利用が可能だろう。逆にあまりに決定係数が低いものをコストドライバー線として、サプライヤー交渉に利用しているのであれば危険なので見直ししたほうが良い。

では、次は3回目だ。コストドライバー線を引くやり方と、精度確認が終わったら、次にどうやってその精度を高めていけば良いのだろうか。あるいは、陥りやすいミスはないのだろうか。

まだこの段階では、コストドライバー線を学んだことにはならない。重要な3回目の連載にバトンタッチする。次回もお楽しみに。

<つづく>

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