ほんとうの調達・購買・資材理論 (牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 1

● 商談会で知る衝撃の事実

現在、私は各都道府県の中小企業振興機関によるバイヤー企業とサプライヤーのマッチングを目的とした商談会に積極的に参加している。開催の頻度は、時期的にも変動があるが、少なくとも2回程度/月の割合である。(詳細は、バックナンバーの12号(2010年2月8日号)をご参照願います。無料購読期間の方は、すこしお待ちください)

そのような商談会に出席して主催者側の担当者と話をしていると、驚きの事実を知ることになる。それは、多くのバイヤーは新しいサプライヤーを探していないということだ。実際に私がこれまでにお会いした担当者の方は、ほんとうに発注企業の確保に苦労されている。そしてやっとの思いで参加希望を取り付けても、実際の商談会では、業務都合と称したドタキャンをしているバイヤー企業が必ずある。そんな私が実際に目にした出来事から、実はバイヤーは新しいサプライヤーを探していないのではないか、との結論を持つに至っている。

では、なぜバイヤーは、新しいサプライヤーを探さないのだろうか。

● 市場環境への対応

言うまでもなく、バイヤーにとってサプライヤーとはなくてはならない重要なリソースである。バイヤーにだけでなく企業存続の上でも、自社にない、もしくは不足するリソースによって、モノ・サービスを提供してくれるサプライヤーは、それがなければ事業運営が立ちゆかなくなる必要不可欠な存在である。

企業の経営戦略でもっとも重要な事は、市場環境への適合であろう。変化の激しい時代であるかあらこそ、自社の強みを活かした成長機会の見極め、成長する市場への経営資源の投入を行う上で、変化する事業構造とともに、自律的に変化へ対応できる事が、今まさに求められているといって良い。では、バイヤーが市場環境の変化へ自律的な対応を行うには、どうすればいいのであろうか。これは言うまでもなく、バイヤーにとって最大のリソースであるサプライヤーを、時々に応じた市場環境をふまえた経営戦略へマッチさせていくことに尽きる。では、新しいサプライヤーを探さないバイヤーは、いったいどのように市場変化、環境変化に対応しているのであろうか。

● 何もしないバイヤー

バイヤーは、いったいどのように市場変化、環境変化に対応しているのであろうか。答えは簡単、サプライヤーが対応しているのである。前号より提示しているこのレポートにも有るとおり、日本企業の過去の優位性には、

・ ピラミッド構造垂直統合・自前主義モデル
・ 擦り合わせの生産性向上で、同業種間切磋琢磨

が強く関係している。この2つが日本企業が世界を席巻する原動力たらしめ、そんな強いセットメーカーに鍛えられて、多くのサプライヤーがともに発展していったといえる。これは本有料マガジンの4号でも取り上げたエピソードが思い出される。

「この30年間、営業しなくて良かったんですけどね、今回の不況は訳が違う」

私が実際にお会いしたある社長の方のお言葉である。先に「何もしないバイヤー」と書いたが、実際はバイヤーは自社の要求をサプライヤーへ伝えさえすれば良かったのだ。それは、バイヤーでなく技術部門であったり、営業部門であったりが創造した要求内容だ。事実、その延長線上のアクションとして、大手企業でのサプライヤーの皆さんへの説明会、懇談会と称した、自社の経営方針、それに基づいた購買戦略を説明する場が多く設けられている。実際、本有料マガジンをお読みのバイヤーの方も、そのようなイベント開催の準備に明け暮れたご経験をお持ちであろう。

しかし、今我々がおかれている状況は、これまでとは大きく異なっている。従い、従来の延長線上での対応では、市場環境への適合は難しい。事実、私は先週中国へ行って、面談するサプライヤーのすべてに旺盛な投資計画を説明された。自らの足で歩いた感覚を持ってすれば、日本は完全に乗り遅れている。今はこの「乗り遅れている」との表現で良い。しかし、問題は乗り遅れてしまった「次」があるかどうかである。最後のバスが出発した後ではいくら待ってもしょうがないのだ。

● サプライヤーマネジメント原論

すこし前段が長くなったが、ここで最初の問題提起である「新規サプライヤーを開拓しないバイヤーの存在」に戻る。これまでの日本は、強いセットメーカーの存在によって、新しいサプライヤーを開拓せずとも企業経営に問題は生まれなかった。しかし、これまでにも市場環境の変化、顧客ニーズの移り変わりはあったはずだ。その変化への対応は、バイヤー企業側が新しい課題を提示しサプライヤーが応えるとのスタイルであった。故に、新規サプライヤーの開拓を行うことなく、変化への対応をおこなってきたのだ。しかし、先に述べたとおり、バイヤーの課題提示→サプライヤーの問題解決では対応しきれない変化が到来している。私は、このような問題の根源に、従来の発想によるサプライヤーマネジメントがあると考えている。

● 従来型サプライヤーマネジメント

・ パートナーシップがサプライヤーとの関係の基本
・ 重要なサプライヤーとは関係を強化する
・ 重要なサプライヤーの定義は取引額の規模
・ 関係の強化方法は、取引先協力会やバイヤー企業とサプライヤー企業双方のトップマネジメントによる懇談会の設置

典型的な従来型サプライヤーマネジメントの特徴を挙げてみた。長期的なビジネス関係の構築を行ってきたのであれば、このような特徴を持つことはある意味妥当かもしれない。しかし、かつて経験したことがないような大きな変化の中にあって、少なくとも時流に乗り遅れない、あわよくば時代をリードすることが必要な企業経営にあって、このサプライヤーマネジメントのスタイルは、ある意味で機能不全に陥っているといってよい。それは、従来のサプライヤーマネジメント、そして今の調達・購買部門が抱える根っこの問題が関係している。キーワードは「未来」「顧客」である。

● バイヤーがもつべき顧客志向

企業内にもうけられたあらゆるセクションの機能からすれば、顧客のニーズを社内へ展開するのは営業・販売部門となる。バイヤーの持つ顧客志向とは、直接的に顧客の声を聞くことではない。あくまでも営業部門が自らの職責に基づいて情報収集し、分析した顧客志向に基づいて我々バイヤーはサプライヤーの取捨選択を行うというものだ。現在では、その基本形から様々な発展した理論が紹介されているが、いわゆるPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)を用いて、製品の各ライフサイクルによって的確なサプライヤーマネジメントをおこなう。自社製品が導入・成長・成熟・衰退のいずれのポジショニングに位置するかをサプライヤーマネジメントにも適応させ、能動的なソーシングへつなげていくという考え方である。

● バイヤーが持つべき未来志向

企業内で未来を語る責任を持つのは、マーケティング部門と技術部門である。いずれも将来の糧を確保すべく、これまた情報収集と分析、そして社内外のリソースを考慮して将来的な事業計画へと昇華させていく。ここでは、侃々諤々の討議を経て策定された技術戦略をサプライヤーマネジメントに反映させ、将来的な外部リソースの確保を計画的に行うという考え方である。

この2つの視点をサプライヤーマネジメントに活用し、ほんとうに重要サプライヤーを決定する方法をお伝えしたい。

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