ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

何かを選択するときに、純粋な評価などありえない。もっといえば、選択物の持つほんとうの実力を反映することはできない。

今回は、以前に好評だったQCD評価を、より純化した形で、かつ深い内容をお伝えする。

よくバイヤーは「サプライヤーをQCD評価によって選定している」という。さも、QCD評価さえすれば、あとは何の問題もないように。しかし、QCD評価は、評価者の恣意的な判断が色濃く反映される。

QCD評価は、理論的に、まったくもって曖昧な評価手法でしかない。それを、見ていこう。たとえば、QCD、それぞれを評価する部門を考えてみよう。Qは品質部門、Cは調達・購買部門、Dは生産管理部門だろうか。サプライヤーは、A社からD社までの4つの企業体だ。

そのときの選好がこのようなものだったとする。

それぞれバラバラな順序で、サプライヤーを好んでいる。ところで、バイヤー企業には、そもそもA社というサプライヤーしかいないとしよう。

すると、当然、A社しか選択肢はないから、A社が選ばれる。

ここで、生産部門が好むD社が登場したとしよう。

納期がめちゃくちゃ早いのである。A社とD社を比べたときに、もちろんD社が選ばれる。

D社は納期短縮という武器によって、バイヤー企業に参入するのである。

すると、コストが安いC社を参入させようと、調達・購買部門が乗り込む。

C社はこのような立ち位置にあった。すると、各部門の選好から、必然的にC社が選択されるのである。

ここで品質部門も負けてはいない。「品質こそすべて」と信じる品質部門は、その分野にもっとも優れたB社を参入させようとする。

すると、C社は選定に負けてしまうのである。

結果、B社が最終的な勝者となる。さすが、日本のものづくりは品質が最優先である。品質に勝っているサプライヤーこそ最終の勝者にふさわしい……とはたして言えるだろうか。ここで、奇妙なことが起きていることに気づく。

最初の選好を思い出してもらいたい。

この例では、B社が勝利することになったが、もともとB社をA社よりも好んでいた部門などなかったのである。すべての部門の選好において、A社のほうが勝っていたにもかかわらず、比較法では理論的にB社が選ばれた。

これをどう考えるべきだろうか。これは純化した形で伝えている。なので、理解がしやすいかもしれない。ただ、これは実務上でも起きているパラドクスである。

既存サプライヤーがいる。その弱点を克服しようと、他のサプライヤーを参入させる。すると、既存サプライヤーの弱点は克服できるものの、違う弱点が露呈する。それを穴埋めしようと、さらに違うサプライヤーを参入させる。

そのようなプロセスにおいて、必然的に選択された「もっとも優れたサプライヤー」が、「もっとも劣っている」ということが起きるのである。最初からA社からD社までの4企業が揃っていれば、このような間違いがないという人もいる。しかし、実際、同時に4つの情報を完璧に揃えることはできず、このような誤謬が引き起こされる。

比較法は、その順番によって、平均的にきわめてすぐれた選択物を落としうるものなのである。では、QCD評価は、比較方法ではなく、点数決定方式にすればよいではないか。そう考える組織がある。各社を絶対的な基準で評価すれば良い、というものだ。実際に、この方式は多くの企業で採用されている。

しかし、残念ながら、それであってもQCD評価は誤謬をもたらすのである。このQCD評価の誤謬は、「サプライヤーを選定する」という調達・購買部門の大きな業務に関わることなので、非常に重要だ。

さらにQCD評価の限界を説明してみたい。

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