episode1 いきなり議事録を書く
「最近、いつ逆立ちをしましたか」
私の知人に毎日逆立ちを続けている人がいます。その知人は、 とにかく元気です。日々イキイキしています。 私は少しでもその人に近づくために、 何か特別な健康法があれば教えて欲しいとお願いしました。 すると返ってきた言葉が冒頭の言葉です。
逆立ちという、普段の逆の状態を作ることで得られる効用には、 ありとあらゆるものがありました。調べてみると、 逆立ちとはヨガの王様と呼ばれているポーズだそうです。記憶力の改善や、育毛促進なんて効果も謳われています。 私が知人から勧められて一番魅力的だったのは、 新たな投資を必要としないことでした。 ただ普段の上下のポジションを逆にするだけ。それで、 大きな効果が期待できるかもしれない…… レバッジとしての効果は絶大というわけです。(ただし、 体力的に逆立ちが難しい人には、専用の器具があり、 これには少し投資が必要です)
今回は「いきなり議事録を書く」 ことで得ることができる大きな効果をお話します。これを行うのに、新たな投資は不要です。 いずれやることを前倒しでやってしまう、それだけです。 まだ打ち合わせも終わるどころか始まってもいない状態で議事録を 書いてしまいます。いきなり議事録を書いたら何が得られるのか、 そもそも議事録なんて書けるのか……この方法では、 一般的な手順を逆にすることで、 意義をより深く実感できる打ち合わせの実現、 事前に想定外のリスクに気づく、 そんな思わぬ効果を得ることができます。 どんな打ち合わせでもかまいません。まず、アジェンダでもなく、 とにかく「議事録」を書いてしまいましょう。
いきなり議事録を書くことで得られる自分へのメリットをまとめる と、以下の3つになります。
① 目の前にせまった打ち合わせでなく、 ちょっと先に必ずおこなわれる議事録作成へ視点を動かすことで実 感できる視野が広がり
② 広がった視野で見える範囲内に整合性を求めることで、 打ち合わせ進行内容の事前検証の実現
③ 議事録を作成することが、 あらゆることに思いを馳せて考えなければならない状況生む
最初に、 いったい議事録にはどんな内容を書けば良いのでしょうか。
1.開催日時
2.出席者
3.開催目的
4.討議内容
5.結果
6.今後のアクション
こういった内容を、打ち合わせの進行を想像しつつ、 事前にそれも好き勝手・好き放題に、 自分の思い通りに書いてしまうのです。 ここで上記1から3は問題なく書けます。 事前準備で不可欠な内容であるためです。しかしポイントは、4. 5.6です。次は5の結果を書きます。 大幅な購入価格の引き下げ、引渡し条件の改善、 そんな自分が望むあるべき姿を書いてしまいましょう。 バイヤーとして切望してやまない最良の結果です。 こんな結果が出るといいな!を100% 出し尽くしてしまいましょう。
結果が書き終わったら、次に6の今後のアクションを書きます。 この結果を受けて、どのような事後のアクションが必要になってくるのかを考えます。 重要なのは、どんな素晴らしい結果でも、 必ず実行すべきアクションを明記することです。 自らは何らアクションを起こすことなく、 最良の結果が得られることはありません。 バイヤーとは金銭を支払うことで、 モノやサービスを受け取る仲立ちをします。最低限、 ある金額をいつ支払うのかといった、 基本的な内容は明記できるはずです。
ここで、 最良と思っていた結果でも意外な一面に気づくかもしれません。 いろいろな問題が起こる可能性へ目を向けねばなりません。 モノを購入するのなら過剰仕様になっていないかどうか。 サービスであれば、作業量が多い割に効果が薄くないかどうか。サプライヤーより提示されたメリットは、 費用対効果でほんとうに妥当性があるものか。 そんな疑問が出たらとても幸運です。 このように思いをめぐらせる中で、打ち合わせ結果以降が、 実現不可能な絵空事と判断できるのであれば、 もう一度5の結果を考えます。
そしてあるべき結論へ導く為の討議内容を考えます。 先ほど最良の結果を書く、といいました。ここで問題になるのは「 最良」の意味です。一方的に自社に都合の良い「最良」であれば、 打ち合わせ相手と合意できる可能性も少なくなり、 そもそも議事録に書いた内容の実現性が極めて薄くなります。 実現性の薄いストーリーで打ち合わせに臨むことは、 事態をさらに悪化させることにつながります。 そんな事態は避けなければなりません。 自社のメリットが相手の目にはどう映るのか。 自社のメリットとサプライヤーが感じるメリットのバランスはどう か。昨今の厳しい状況を反映して、 サプライヤー側のメリットを考えることなどできないといった厳し い意見もあるかもしれません。 しかしバイヤーが取り組む仕事とは自社に、 そしてサプライヤーにも一定のメリットがない限り成立しません。 サプライヤー側のメリットを考えないが故に、 想定外の大きな魅力が生じている可能性だってあるのです。 そんなことに思いを馳せるプロセスが、 まさにこのタイミングなのです。
おこなわれていない議事の記録を作成するわけですから、 あらゆる事へ考えを巡らせる事は不可欠です。 お互い気心の知れたビジネスの相手なので、 気軽にただ漫然と打ち合わせの開催が決まる。 そして日時と場所を設定したら後は開催を待つばかり……例えば、 サプライヤーとの打ち合わせを想像してください。 サプライヤーとの打ち合わせで、 バイヤーの生み出す付加価値とはなんでしょう。日時の設定と、 場所の確保、出席者への周知だけでは絶対にありません。 その先にある内容にこそ、 私はバイヤーとして付加価値を創出していく舞台があると考えます 。 どういったプロセスでどんな成果を得ていくのかを考えることが、 我々バイヤーに課せられた責務であるといえます。確かにビジネスには「待つ」事や「状況を見極める」 事が重要な場面もあります。 そんな自分で動かなくていい場面ほど、 次の動くべき瞬間への英気を養う貴重な時間なのです。 動くべき場面は突然やってきます。そんな「突然」 に対応できなければ、期待する結果は得られないのです。
そんな必然的な突然に対処するために「考える」 ことが必要になるのです。ただ、この「考える」 ことは非常に厄介です。まず、 他人から見てほんとうに考えているのかどうかわかりません。 考えているかどうかは本人にしかわからないのです。自分でも「考える」ってどうやるのだろうと悩みます。 しかし漫然とただ考えるといっても、 なんら海図も持たず海を渡ることは非常に難しいように、 いきなり何ももたずに「考える」事はかなり困難な作業です。
このいきなり議事録を書くことは、 道なき道を頭の中に描くことに他なりません。 そして議事録という形に残すことで、 作成者の考えを関係者へ知ってもらうことが容易になります。 知ってもらったその先にこそ、 このアクションのポイントがあります。 事前に書いた議事録の内容に、あれこれと言ってもらえたら、 それが更なる事態想定へのネタになるはずです。 打ち合わせの準備として、打ち合わせ内容についての考えに、さらに厚みと奥行きが増すことになるのです。
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