5-(4)-2 業界知識の理解「私の経験」
「一体何を話しているのだろう」
私がバイヤーになったときに、先輩バイヤーの商談に同席していたときのことです。
何を話しているのか全く分かりませんでした。正直言って。
日本語ですから、話の流れは分かります。ですが、その端々に出てくる固有名詞が全く分からず(最初なので当然ですが)、何が起こっているのかが理解不能でした。「ソース」くらいならば「プログラミング」のことくらいはすぐに分かります。ですが、「みかか」ときたときは、さすがに驚愕しました。「みかか」とキーボードでかな入力すると、その電話事業体グループになるのですが、そのひどすぎる略語が共有されていることにもっと驚愕したことを覚えています。
どんなに優秀な人であっても、何も知らないと何もできません。右から左に注文書を流すだけであれば、業界知識など不要でしょうが、私はそうはなりたくなかった。
私は早速、自分の担当製品領域の情報を集め始めました。
(1) 業界内サプライヤーシェア(日本・世界)
・ 日本、世界シェア
・ 金額ベース、数量ベース
・ 業界の中でセグメント分けされているところは、それぞれのシェアを把握します
(2) サプライヤー各社の強みと弱み
(3) 競合他社調達構造
競合他社がどのようなサプライヤーから調達しているかをまとめます。もし今後○○社の情報が必要となれば、A社を通じて情報収集することになります。
(4) 業界固有用語、略語
正直に申し上げて、最も役立つ資料はこの「業界固有用語、略語」集です。これに暗黙知を共有できれば望ましいでしょう。
バイヤーが後任者に引き継げるのは価格表くらいだ、と言われます。私はバイヤーになったばかりのときに困った経験を持っていましたので、詳細なリストを作成しました。
「みかか」は某電話事業体グループのこと、から始まって様々な用語・略語・隠語、そして「こういうときは誰に聞けばよいか」「このサプライヤーのキーマンは誰だ」などなどこれまでなかなか言語化されなかった業界の知識やコツまでも網羅してゆきました。このリストは後輩バイヤーに引き継いだあと数年間も使われていたようです。
最近の企業は社員SNSを導入し知識を共有化しようとする動きもあります。そこまで進歩的ではなくても、メーリングリストを作ることくらいはできるでしょう。そこで「こういうことに困っている、どうしたらよいだろうか?」とか「この会社でこういうすごい方法を実践していた」とかの情報を共有化することができます。新しいITツールでなくても、誰でもアクセスできるサーバーに共有エクセルファイルを置くだけでも十分です。
ほとんどの場合、「全く新しい仕事」などというものは存在しません。たいていは以前同じことを誰かが調べているか、既に資料をまとめていることがほとんどです。それが上手く下の世代に伝わっていないから、下の世代が同じことをやり出します。これからは、いかに情報を集めるかに注力するのと同時に、集約できた業界知識をいかに他のメンバーと共有できるかを意識せねばなりません。