3-(5)-3 ベンチマーク「ベンチマーク比較を成功させるために」
ベンチマーク比較では二つの勢力がぶつかります。「仕様を削ったり、サプライヤーを見直したり、調達国を見直してコストを安くしよう」という勢力と「そんなことをすると品質レベルが落ちてしまう」という勢力です。
前者が強ければ、ベンチマーク比較結果が製品に反映されるでしょうが、結果としてお客に魅力のないものを提供しかねません。コストが抑えられればよい、という考えだけでどんどん仕様を削って、他社の模倣製品を生産してもいかなる付加価値も生まないからです。
逆に、後者が強ければ、そもそもベンチマーク比較する意味は喪失します。加えて、他社動向を無視して生産することは自社だけ時代に取り残されるという結果を生んでしまいます。
おそらく、その解決策は前者と後者が「客に魅力のある製品を提供する」という一点で意識を集中させることです。
たいていの場合、「自社が想定している価値」は、「お客が感じる価値」をだいぶ超過しています。「そんなところに気を遣わなくても客は誰も気づかないだろう」という感想を持ったことのある人は多いと思います。最近は家電製品にも様々な付加機能がありますが、それを使いこなせている人はいません。10のうち7つの機能しか客が使えず、残りの3つに価値を感じないのだとしたら、まさにこの3つが過剰品質です。
まさにその過剰品質がプロのこだわりであるのですが、「自社が想定している価値」をできるだけ「お客が感じる価値」の輪に狭める必要があります。これを達成できた製品が市場の呼ぶ「安くて良いもの」です。
自部門の軸だけを持っていれば、そこには部門間の軋轢が生じます。しかし、両者が「お客への価値提供」という軸を持っていれば、軋轢はぐっと減るはずです。「この部品を削除してもお客への価値は変わらない」という発言が可能になり、「この耐久レベルを減じてしまうと、お客が感じる価値は下がってしまう」という発言にも、単にコストだけではない次元の話ができるはずです。逆に、「この仕様を追加することで、客に提供できる価値は代価以上になる」という提案にもコストアップという観点以外からの考察もできます。
安くするだけならば、誰にでもできます。「せっかく安くできる仕様を提案しているのに、設計が言うことを聞いてくれない」というのもたやすい話です。重要なのは、自社製品が現在持つ魅力を減じさせずに、客に価値を提供できるかというところです。
ただただコストを下げることだけに盲目にならず、客への提供価値向上という意識も持ってベンチマーク比較を実施して下さい。