1-(5)-3 調達と倫理<バイヤーは「買ってやる」のではない>(調達・購買とは何をするのか)
また、バイヤーのサプライヤーに対する態度も問題となります。
とある有名メーカーのバイヤーはガムを噛みながら交渉するのだそうです。また、そういう人に限って調達部門のキーマンだったりするから始末に負えません。
周囲のバイヤーの発言を聞いても、おおよそ「平等な立場」を実現させようという気配すら感じることのできないものがあります。
「やる気あるのかよ」
「忙しいからあとにしろ」
「そんなこと言ってくるな」
などなど。また、私自身の経験では、人が目の前に座っているのに、携帯電話で延々と話し続けたバイヤーがいました。これは、調達・購買部門の倫理、というより人間としての基本的な礼儀の欠如といってもよいかもしれません。
脅しとハッタリだけを前面に出したり、ペラペラと他社の情報を話したり。こういうバイヤーが営業マンの真の信頼を勝ち取ることはできません。
また、これこそ恒常的に行われていることですが、他社の見積りを勝手にコンペティター(競合サプライヤー)に見せてしまうことがあります。「相手はこういう金額だから、これよりも下げろ」というわけです。それを「見積り比較」と言って、コスト低減手法かのように自慢するバイヤーがいますが、とんでもない間違いです。他社の見積りを見せさせられた営業マンは、最初は感謝するかもしれませんが、自分の見積りも同様に他社に提示される可能性を感じ、中長期的には必ずコスト高になります。なによりも、他社の書類を合意なく見せることは脱法行為です。
そのような行為を当然のこととして教え込まれた若手が同じようなことをしだすのは当然です。これらは部門全体として確実に防止する強い指導が必要となります。
同時に調達・購買部門として、社内にも同様の注意を促すことも必要です。設計部門でも、ときに倫理(というよりも常識)が欠如している場合は、他社の図面をそのまま横流しし、「同様の製品が作れないか」という検討をさせていることもあります。これでは機密管理が上手くいくはずがありません。
コスト情報も同じことで、せっかく調達・購買部門が競合しようとしているのにサプライヤーの一社が他社のコストレベルを知っていることがあります。「なぜ知っているんですか?」と聞くと「設計者から聞きました」という答えが返ってくることがあります。おそらく同様の経験をお持ちの方もおられると思います。
まずはバイヤーとして倫理を持った業務を推進すること、そしてその後、自分の行為を通じて社内全体を啓蒙する姿勢が大事です。