サプライヤの値上げを積極的に認める取り組み(牧野直哉)
私は長年にわたってサプライヤからの値上げ要求対応をセミナーでみなさんにお伝えしてきました。基本的な考え方は、原材料費高騰や人件費アップは、サプライヤの責任でもなければ、バイヤ企業の責任でもありません。「市況」による発生費用の上昇影響は、サプライヤとバイヤ企業の双方に重くのしかかってきます。よくある状況に対して、私たちはどのように対処すべきでしょうか。
私は基本的に費用上昇にまつわる影響を、サプライヤとバイヤ企業で折半すべきと考えています。闇雲に折半するのではありません。費用上昇幅について、サプライヤとバイヤ企業の双方が納得し、双方の社内から合意が得られるのであれば、対等に負担する考え方です。条件がそろえば値上げを認める対応でもあります。
これまで、バイヤ企業からサプライヤに対しては、あえて値上げに関する話題は持ち出さないのが基本的なスタンスでした。サプライヤから値上げ要求がなければ、値上げを検討する必要もないし受け入れる必要もありません。あえて値上げ要求があったサプライヤにだけ、対応すべきといった考え方でした。ここまであらゆる品目に原材料費や人件費上昇の影響が及び、様々な品目で値上げ要求が行われる状況では、サプライヤから値上げ要求受けた場合に対処するのでは、バイヤ企業の対応が「待ち」の姿勢になってしまい、対応が後手に回る可能性が高まっています。
値上げ対応が後手に回るとき何が起こるのか。サプライヤ社内での値上げ要求圧力が強ければ、遠くない未来に納入を代償にした交渉が始まるでしょう。値上げを認めてくれなければ、納入停止せざるを得ない、といった主張です。こういった主張は、バイヤ企業にとって納得できる話ではありません。サプライヤから見れば、販売する価値を認めない顧客に対して、納入を停止するのは極めて自然な話です。値上げ要求と供給停止がセットで語られた場合、残念ながらバイヤ企業に短期的に対処可能な代替手段がありません。品目によっては、別のサプライヤによって代替供給が可能な場合もあるでしょう。一般的にモノ不足が叫ばれる中、簡単に代替できるといった想定はできません。
値上げ交渉を有利に運び、ある程度値上げ見通しを立てて、できるだけ業績見通しに反映するという観点からも、バイヤ企業からサプライヤに値上げ見通しに関する話を持ちかけるのも1つ手段として持つべきではないか、との考えに至っています。あらゆるサプライヤに話を持ちかけるのではありません。バイヤ企業にとって欠くことができない重要なサプライヤであり、サプライヤからも重要顧客であると認識し、日常的な対応にも表れている場合に限られます。要求があった値上げ幅をそのまま認めるのではなく、内容に妥当性をサプライヤとバイヤ企業双方で求め、確認作業を共同で実施できる相手しか、あえて「値上げ要求ありませんか」といった投げかけはできないでしょう。取り組みの背景には、これまで十分なサプライヤマネジメントを通じて、サプライヤの層別管理が実践され、重要性の高いサプライヤがバイヤ企業社内の共通認識になっている必要があります。前提条件が整うのであれば、サプライヤ主導で、サプライヤからの要求を待つのではなく、バイヤ企業主導で値上げ対応行うためにも、値上げの要否をバイヤ企業からサプライヤへ投げかけてもいいのではないか、と思うに至っています。
例えば、サプライヤからの値上げ要求を待っている状況では、 2022年度にどのような値上げを実現しなければならないのかが想定できません。想定できなければ予算に織り込むことも難しいでしょう。仮に盛り込めたとしても、根拠の薄い大まかな金額しか盛り込めないはずです。原材料費の高騰による影響が今後どのように推移するかは分かりません。わからないからそのままにしておくのか。少しでも何か見通しを立てられるのであれば、予算に織り込んで、推移を注意深く見守るのか。こういった取り組みによって、バイヤの市況見極める目が養えるといった効果も期待できる取り組みです。
確かに、バイヤ企業からサプライヤへ値上げを持ちかけるのは、やぶからヘビを追い出す行為に他なりません。しかし多くの企業で「値上げ」というヘビから逃れられない中、追いかけられるよりも、自分から仕掛けるといった対応が今、値上げ対応に求められていると感じます。