誰もいわない絶対に通るプレゼン術(坂口孝則)
きわめて役に立つプレゼンテーション例をお話します。みなさんの業務に何か役立てられないか考えつつお読みください。ある企画会議でのことです。そのひとは企業の役員層にむけて新商品のプレゼンテーションをおこなうこ
とになっていました。
それにしても役員は曲者だらけです。もっといえば、指摘のための指摘をやっています。つまり、良いところを探すのではなく、アラを探そうとするのですね。こういう役員層は、この会社だけの話ではありません。よくある話
でしょう。だから資料は慎重に慎重に作成する必要があります。
そのひとが資料を出すと、役員層から厳しいツッコミの嵐となりました。「こんな新商品は売れないだろう」「市場の誰が求めているんだ」といったネガティブな反応ばかりです。でも、考えてみるに、会社のカネを費やして
新商品を作るのですから厳しくなって当然ですよね。ただ、その厳しさのレベルが常軌を逸したものだったのです。
とくに「おいおい、このアンケート調査の母数が少ないじゃないか」と呆れるような声があがりました。通常、1500人ていどはアンケートをとらねば、大衆の総意はわかりません。それなのに、たった100人ていどのアン
ケートだったのです。「これじゃあ検討するに値しない」。誰もがあきらめていたそのとき。反撃がはじまります。
役員たちは、次のページをめくった瞬間に驚愕しました。そして企画は通ることになります。
なんだと思いますか?
それは、そのアンケートは、役員の家族に実施したものだったのです。つまり、「こういう商品がほしい」と紹介されていた声は、まさに役員の家族から拾ったものでした。アンケートは当然ながら、顔の見えない「誰か」です。でも、自分の家族なら顔はわかります。しかしそれにしても、いちばん身近な家族の声を聞き忘れたまま新商品を作り続けていたのです。
そこには役員の反省もあったのだろうと思います。そもそもものづくりは、自分が絶対にほしい物をつくる、が基本です。それなのに、このところビッグデータとか、市場アンケートとか、カスタマーなんたらといったものばか
り。そこに、実態としての生活者の声は介入する余地すらありません。役員たちは、身近な、とはいえあまり話す機会のなかった家族の意見を、なんと企画書を通じて知ることになったのです。
面白いエピソードだと私は思います。プレゼンテーションといったら、内容とか体裁ばかりが注目され、そもそも相手を一発でYESといわせる場面設定づくりは無視されているからです。その場面設定ができれば、小手先のプ
レゼンテーション技術は不要なのでしょうね、きっと。何かに役立てば幸いです。