大企業脱藩日記②

私は大企業を辞めたあと、赤坂で小企業で働きはじめた。「売上をあげる」のがミッションだった。当たり前だ。そうしなければ、私に支払う給料が捻出できない。これが予想以上の重荷だった。想像してみてほしい。何もない空間に、机とパソコンがあって、「新たなビジネスを立ち上げる」というミッションを課される。はたして、いったい、何をすればいいだろうか。もちろん、何をやっても自由だ。しかし、何からやろう。

わからなかったので、既存ビジネスの営業に同行してさまざまなところに行った。当たり前なのだが、誰も私のことは知らない。当時、書籍は10冊以上を出していた。しかし、誰も読んでいない。これまた当然ながら、世の中は広いのだ。もちろん、すぐさま売上をあげるように司令があったわけではない。半年、あるいはそれ以上、売上がゼロであることも会社は意識してた。ただ、それでも、自分が何もできないのに時間だけが過ぎていくのは、胸が詰まるほど、そして心を病むほど、しんどい。

なお、まったく白紙でサービスを立ち上げようとしたわけではない。もともとは、会員サービスの立ち上げを狙っていた。月額でいくらかをもらったら、こちらがサービスを提供する仕組みだ。どんなサービスかというと、名刺が安価に発注できたり、パンフレットを安価に発注できたりだ。しかし、中に入って私が感じたのは、「これでは商売にならない」だった。お金を払ってまで享受するサービスではなかったように思う。そもそも、私がそれまで相手にしていたのは、直接材のひとたちで、名刺とかパンフレットを担当している間接材担当者のことをほとんど知らなかった。それに、コスト削減するために、月額の固定費を支払うだろうか。答えはNOだった。

そして、このころ、世の中で「調達・購買コンサルタント」といったひとたちに話を聞いたのだが、がっかりすることが多かった。コンサルタントと名乗る以上は、それなりのノウハウや知識があってしかるべきだ。しかし、彼らからノウハウらしきものを感じたことがない。相見積りをとって値段を下げておしまい。結局、調達・購買コンサルタントは仕事を「営業力」で獲得しており、身も蓋もない現実しかそこにはなかった。

手っ取り早く、何か現金化できることはないか。セミナーでひとを呼んだらどうか。会社のメールマガジンで集客しても、最短で1ヶ月後だ。いまでは考えられないが、受講者がお二人だったことがある。いや、お一人だったこともある。それでもしかたがないので、会社のメンバーを机に座らせて、なんとか開催した。

いまでは考えられないものの、「講演させてください」と頼んで営業をまわったこともある。「いや、いきなり、講演っていわれてもね……」といった反応だった。それで受注しても、10万円か20万円か30万円か、それを1ヶ月に一回こなしても、まだ給料に達しない。

そこで、講義を録画して、それを月額会員に見せようと企画した。ただ、ここでも問題が続出した。録画したのは良いものの、素人が撮った動画はとても見るに耐えないものだった。いまの私なら、コストをかけてでも高画質を狙うだろう。しかし、当時は、コストをかける自信がなかったのもあって、すべてが中途半端になった。さらにサイト構築で、高額をふっかけられ、安価なところを探して作ってもらったらエラーが続出した。ウェブを1ページつくったら1日かかるようなありさまだった。

さらに私は追い込まれた。どうしようもなかった。時間だけが過ぎていった。

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