サプライチェーンの断絶はなぜ発生するのか?

サプライチェーンといえば、その「断絶」が枕詞のように使われます。これが、サプライチェーンという言葉を伴って大きく話題になったのは、2007年の新潟県中越沖地震の影響で、自動車メーカー各社に部品を納入しているメーカーの被災です。自動車のみならず、納入を待っている顧客が人員を派遣して工場の復旧に取り組みました。

その後、東日本大震災の発生によって、被災地企業の操業が停止した結果、日本国内のみならず海外の工場もストップする事態に至りました。これは企業がグローバルに展開した結果、世界に分散していたメーカーが「選択と集中」を合言葉に、生産性を高めるために工場を集中させたのも大きな要因です。特に日本国内では、バブル崩壊以降の失われた× ×年によって工場の集約が進み、工場の被災で生産が停止して、サプライチェーンに大きな影響を及ぼしました。

東日本大震災以降、サプライチェーンの断絶を防止する取り組みが活発に行われました。東日本大震災の発生直後は、「国内に2カ所、海外に1カ所」といった目標を掲げ、どんな災害がに見舞われてもサプライチェーンを維持するといった決意を表明する企業もありました。しかし、大きな災害に襲われる非常時を過度に想定すれば、平時のサプライチェーンではコストがプラスに作用します。したがって、現在では闇雲に生産場所やサプライヤーを分散させるよりも、一時的なサプライチェーンの断絶はやむを得ない、できるだけ早急に復旧するような取り組みが、政府の主導で行われています。

ここで「なぜサプライチェーンの断絶は起こるのか」を考えてみます。

東日本大震災の場合、大地震の大きな揺れによって発生した被害で断絶が起こったのではありません。事実、筆者が当時の仕事で関係していた南相馬市のサプライヤーは、工場の手前で津波が止まり、震災発生後1週間で操業を再開しています。1週間操業ができなかった原因は、電力供給の途絶です。東日本大震災では、地震後に被災地を襲った津波と、福島第一原子力発電所の事故によって、被災地に立地する工場の操業に大きな影響を及ぼしました。

一方、熊本地震でもトヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーの工場の操業が停止しました。これは、東日本大震災ではさほど大きな影響を及ぼさなかった揺れが要因です。極めて短期間に震度7が2回被災地を襲ったために、工場の建物が倒壊したり、道路が途絶したりしてサプライチェーンの断絶が発生しました。

最近では、一時的ではありますが大雨によってサプライチェーンの断絶が発生しています。一言「サプライチェーンの断絶」といっても、その要因は多岐にわたり、これまでに起こったサプライチェーンの断絶に対処するだけでも、その手間と費用は膨大になります。だからといって、いつ起こるかわからない災害に準備する意味がない、と言っているのではありません。例えば、熊本地震を例にとれば、工場や事務所の耐震性能を確認し、最新の耐震基準に合致していなければ、耐震補強するといった取り組みは、サプライチェーンを維持するための人命確保に効果的です。また、日本の高度成長期に整備されたインフラが今、多く寿命を迎え、老朽更新が必要になっています。そういった取り組みを継続的に行うのも、サプライチェーンの維持には効果的です。現在日本の物流は、トラック輸送に依存しており、大きな災害に見舞われて道路が断絶してしまうと、それはイコールでサプライチェーンの断絶へとつながります。

また、原子力発電所の問題は政治的な判断が必要となります。日本は地下資源に乏しく、エネルギーの自給は長年の夢です。原子力発電の燃料となるウランも海外からの輸入に依存していますが、高速増殖炉といった新技術の開発によって、エネルギーの自給を目指していました。現代の生産活動に電気は欠かせませんが、発電方式によって災害が発生する事態は、事前想定にはなかったことでしょう。

一言に「サプライチェーンの断絶」といっても、その発生原因は非常に多岐にわたります。したがって、もしサプライチェーンの断絶によっての生活や仕事に影響が及んだ場合には、影響を元に確認することも大事ですが、同時に何が断絶の原因なのかを明確に理解しなければ具体的な対処はできません。大きく原因は2つ、工場か物流かが操業停止したり途絶するとサプライチェーンの断絶は発生します。自動車のように数万個の部品によって組み立てられる製品では、厳密には部品ひとつでも供給が途絶えれば、製品供給ができなくなります。また、品質も断絶の要因になりいえます。昨年ジャガイモの生育状況が悪く、自社の製品品質を保てないと判断してポテトチップが店頭から消える事態になりました。

「サプライチェーンの断絶」が起こったら、まず原因は何か?について思いを馳せると、どう対応すべきかが分かるのです。

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