調達担当者が評価され高く売りつけられる時代(坂口孝則)

フィリピンでのことです。フィリピンでは、グラブというスマートフォンのアプリでタクシーを呼ぶのが一般的です。目的地について、私が降りるときに運転手がスマートフォンで私のIDを見ながら、なにやら操作していました。気になったので、「何をしていますか」と訊ねると、どうも客としての私を採点していたようです。面白い、と思いました。

私たちは運転手を採点します。同時に私たちも採点されているのです。運転手に「点数の低い客から呼ばれたらどうしますか」と訊くと、「行かない」との答え。相互評価のシステムは、買い手だけ偉そうにするのを許しません。

次は日本の昔話です。みなさんは、「団地金融」って知っていますか。有名になった消費者金融は、もともと、団地の部屋を訪ねていって、お金に困った主婦を探し、短期間の融資を重ね大きくなっていきました。ただし、金融業者といっても、誰にも貸せるわけではありません。貸し倒れのリスクがありますからね。また、貸し倒れはしなかったとしても、リスクがあれば、利息を高めにしなければなりません。

そこで、「団地金融」は、部屋の様子を確認したといいます。たとえば、部屋はちゃんと掃除しているか。掃除していなければ、ルーズな夫婦かもしれない。あるいは、ドアの前が散乱していないか。晴れの日が続くのに、傘が出しっぱなしになっていないか。洗濯物はちゃんと干しているか、畳んでいるか。ゴミはたまっていないか。それらを確認すると、おおむね、何パーセントで貸し出せばいいかわかったようです。

調達・購買の人間は、サプライヤを評価する側であり、ときとして傲慢に振る舞います。外部から評価される経験がありません。しかし、たとえば、米国などでは、物流の世界で、配送側だけではなく、荷主側の評価もはじまっています。傲慢で非礼な荷主は点数が低くなり、集荷をお願いしても、なかなか業者が来てくれません。追加費用を払ったらやっときてくれます。

これまで、調達・購買担当者は、ある種の倫理観として、高潔で礼節をもつことが求められました。しかし、相互評価の時代にあっては、それがダイレクトに、調達品の安さに結びつく可能性があります(実際に中国では、芝麻信用というシステムで、全人民のスコアリングを開始していますね)。全国の調達部門が点数化され、それをサプライヤが共有するイメージです。

「あそこの調達課長は酷い」
「あそこの調達担当者は失礼だ」

といった内容が瀰漫する時代がやってくるのです。これこそが、逆にいえば、高潔で礼節が実利と結びつく時代という意味です。ということは、私がこれまで見てきたような、暴言を吐くバイヤーや、無理難題をサプライヤにばかり押し付けるバイヤーが不利になるでしょう。いい時代がやってきそうです。

評価経済の潮流が、調達の姿勢を変えようとしています。

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