女性バイヤーから聞いて驚いた話(坂口孝則)

私は三つの職場を経験しましたが、どこかわからないように書きます。ある女性から聞いた話です。その女性いわく、上司にあたる「あの調達部長は、サプライヤを下に見ている」といいます。彼女は怒っていました。しかし私の印象では、その調達部長が非礼かというと、そんなことはありませんでした。通常の業務中は丁寧ですし、言葉遣いも洗練されています。

その女性は、調達部長と一緒に出張にいったそうです。なんでもそのとき、コンビニに寄り、部長はお金をレジに置き、店員が「ありがとうございました」といっても無言で商品を持ち去ったといいます。そして移動時、タクシーに乗った際には、お金を払うと、「レシートくれ」とだけいって無言で降りたといいます。その女性は、(優しい表現で)調達部長に「その態度はおかしい。こちらもお礼をいうべきだ」といったそうです。しかし、調達部長は「えっ俺の態度のどこがおかしいの」といったそうです。

女性は「ほんとうに心の底から、お金を払う立場と商品を販売する立場が平等だと信じているなら、お金を払う際に、お礼をいうはずでしょ」と私にいっていました。コンビニでも、タクシーでもおなじはずだ、と。

実は、正直に申せば、私はこの話を聞いたとき、この女性が厳しすぎると感じました。しかし、いまはそう思いません。このような些細とも思えるところで、トップの品格が問われると思うからです。さらに調達・購買・資材に関わるひとたちであればなおさらです。むしろ、些末なところにこそ、その人間性が見える、といってもいい。

私とタクシーに同乗いただいた方はわかるとおり、私はタクシーでもお礼をかならず丁寧に述べるようにしています。私は質問が好きなので、タクシー運転手さんに「降車時に、ありがとうございましたと言うお客はどれくらいいますか」とよく訊きます。すると、ひとによるものの「10人に一人」から「20人に一人」といった比率をよく聞きます。ほとんどのひとがお礼なんていわずに降車するんですね。

また私と食事をしたひとはおわかりのとおり、できるだけ、ウェイトレスやウェイターの方々にもお礼をいうようにしています。私は若手に「戦略的な礼儀正しさ」が自らを守るといっています。以前、私は、特定サプライヤとつきあうことを「戦略的癒着」と表現しました。自己模倣していえば、「戦略的慇懃無礼」となるでしょう。

ということでチェックリストです。

・サプライヤは自分のところに来るのが当然と思っていませんか
・遠いところからサプライヤを呼び出しておいて、打ち合わせに遅刻していないでしょうか
・年上、年下にかかわらず乱暴な言葉遣いになっていないでしょうか
・サプライヤよりも自分の上司に気を遣って仕事していませんか
・資料作成、修正……サプライヤの行為はタダと思っていませんか
・サプライヤとの会話を録音され、誰に渡されても問題ありませんか
・サプライヤとのやりとりを自分の子どもに見られても恥ずかしくない振る舞いですか

拝啓、調達部長様。ならびに、拝啓、調達ご担当者様へ。きっとどこかで見られている、かつ、これまで以上の高潔さを持たねばならない、と思いながら仕事にあたりませんか。CSR調達とか、言葉はかっこいいですけれど、重要なのはけっきょくのところ、常識をもって平等に接することだ、と私は思います。

以前、広島で調達の方にお土産を渡したところ、帰り際に走って私のもとにお土産をお戻しになった方がいました。「お顔をつぶさないように、あの場では受け取りましたが、こういうのは受け取らないルールになっているんです」と。私はその徹底ぶりに、逆に感動したのでした。

しかし、持ち帰るのはちょっと重かったんですけれども。

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