今直面している「不足」について
ニュース報道では引き続き半導体不足が報じられています。対応策として、設備投資や自国生産による生産量拡大が叫ばれているものの、残念ながら即効性がありません。設備投資の効果は早くても来年度以降になるでしょう。半導体をはじめとする電子部品の調達を担当していると、サプライヤと社内の板挟みでここしばらくは気が休まらないかもしれませんね。
調達品不足の渦中にいると、今日、来週、来月の生産ラインをどう維持するかに意識が集中しますね。直面している「不足」がなぜ発生したのかは後回しになります。しかしいろいろな調達品で次なる「不足」が進行しているかもしれません。たとえば「雑談」です。
新型コロナウイルス流行により、サプライヤや社内と対面して行ってきたコミュニケーションがWeb化しています。オフィスへの通勤時間や会議室、訪問先への移動時間が削減される業務効率化の有効手段です。まだおさまる気配のない新型コロナウイルス感染予防にもコミュニケーションのWeb化は効果的ですね。
Web会議によるコミュニケーションが効率的である理由の1つが「雑談」です。従来の会議に比しても目的志向が強くなった点はメリット。しかしたあいのない発言しづらくなったのも事実です。会議目的は達成できても、会議の前後に行われていた「雑談」は確実に減少しています。たとえば会議中の発言内容について、隣に座っている同僚に「これってどういう意味だっけ?」と小声で聞いた経験は誰しもがおもちですね。Web会議ツールには、そういったニーズに対応する「チャット」機能が備わっているものの、文章を打ち込んで発信先を選ぶ必要があります。小声でこそっとに比べると随分と面倒くさい。会議の主立った目的を補充するコミュニケーション、「こそっ」と解決していた疑問が、解決されないままスルーされている可能性もあるのです。
大きな疑問は発言するものの、ちょっとした「ん?」はスルーしている。1回の会議では問題ないかもしれません。しかし新型コロナウイルス影響による私たちへの行動変容が必要になって既に1年を経過しました。少しのスルーの「蓄積」によるコミュニケーション不足とその影響を危惧しています。テレワークやWeb会議は従来と異なるコミュニケーション方法なので、目の前だけではなく、少し将来を見据えたコミュニケーションが、社内外とできているかどうかを確認すべきタイミングではないでしょうか。
たとえば需要見通しの下方修正をサプライヤへ伝えなければならない事態を想定します。伝えにくい情報なので、バイヤとして理由や背景を一生懸命確認していたはずです。「困ります!」と言われたらどうするか?も考えていたでしょう。しかし困った事前想定と裏腹にあっさり「わかりました」と言われたらどうでしょうか。反発がなかったらバイヤとしてはハッピーかもしれません。しかし他の顧客から需要が盛んで増産要求に対応できていない中、下方修正の申し出はサプライヤにとって渡りに舟の事態です。でもサプライヤから「いや助かりましたよ、他のお客さまから増産要求があって」といった言葉があったらどうでしょうか。自社の下方修正が正しいのか疑問をもつ「きっかけ」になったかもしれません。
「いや助かりましたよ、他のお客さまから増産要求があって」 こんなサプライヤの本音は、Web会議では聞きにくい内容です。Web会議で雑談しにくい理由は「気が抜ける時間がない」点です。立ち話だったり、ちょっとした待ち時間だったり、会議以外の時間、気を抜いたタイミングだからこそ言える話もあるのです。雑談レスに代表される水面下で進行するコミュニケーション不足が、将来的なモノやサービスの不足につながらなければいいなと今、心から思っています。