今治タオルと技能実習生問題
以前NHKで放送された「ノーナレ(ナレーションのないドキュメンタリー)」が物議を醸しました。婦人服や子供服の縫製技術を学ぶためにベトナムから来日した実習生が、タオルの縫製に朝から晩まで従事し、縫製技術の習得ができない現状を伝える番組でした。
「今治タオル」といえば、今治市はタオルの町として知られています。江戸時代から白木綿の生産が盛んで、1894(明治27)年、阿部平助氏が綿ネル機械を改造してタオルを作ったのが今治タオルの始まりです。歴史ある「産地ブランド」としての地位を固めていました。
番組放送の後、今治タオル協同組合のホームページの「今治タオルブランドからのお知らせ」に「NHK「ノーナレ」報道についてのご報告」が掲載されました。番組放送から2日後のタイミングで迅速な対応です。番組で取り上げられた企業は、会員企業の下請企業であり「今治タオル工業組合」の会員企業ではない旨が、冒頭に述べられています。せっかくの迅速な対応が台なしです。
この問題は、これからどんな企業、日本国内で事業を営む場合には直面する可能性があります。メーカーでなくとも、さまざまな場面で外国人労働者を活用が目立ちます。調達・購買部門で発注するサプライヤが外国人労働者を雇用している場合には、全て同じようなケースを想定すべきです。
CSR調達や持続可能な調達は、まず発注企業としてサプライヤへ「影響力の行使」が求められています。サプライヤが外国人に限らず労働者を不当に扱っていた場合、改善を申しいれ、改善されない場合は「取引停止」まで含めた対応しなければなりません。なんらかの・問題を掌握しているにもかかわらず、問題提起を怠っても「暗黙の加担」として、不正行為に加わったと判断されてしまいます。
今回のケースでも、過去さまざまな日本企業が直面した後に行われた「当社は関係ない」といった点が、まず主張する第一の事実として登場してしまいました。日本ではまだ「加担」してしまった企業に対する風当たりがさほど強くありません。
今治タオルのブランドを確立し守るための共同体である工業組合の会員企業ではないにしろ、下請企業である事実はぬぐえません。二つ目の主張では「社会的責任と道義的責任」を重く受けとめているとしています。これだけでよかったのです。会員企業と取引関係のある企業が今回の問題に関係しているのであれば、まず事実関係を調査して適正な対処を「取引停止」までを念頭において行う旨だけを主張すべきなのです。
この対応に異論をもたれる方も多いかもしれません。調達・購買の現場でも、サプライヤの従業員まで管理するのか、そこまで時間もなければ人もいないといった悲鳴が聞こえてきそうです。だからこそ、できるだけ発生する負荷を最小限にして、現場での実効性をともなう対応が今、求められているのです。