5-(3)-1 情報収集力と情報発信力

・情報を即座に集め、即座に開放する

かつて電子回路を設計しようと思えば、丁稚奉公から始めてトラブルを幾度も経験し、やっと理屈がわかるようになると言われていました。使用部品の選定やクロックタイム……、いくつもの複雑な制約の中で最適解を模索せねばならなかったからです。

それが、今では求めるアウトプットとインプットを選べば自動的に部品を選定し回路図まで作ってくれ、シミュレーションまでやってくれるソフトがあります。はい、この最適部品はこれ、この隣に置くチップコンデンサはこれ。私もやってみましたが、1日トレーニングを受ければ、なんとかソフトを動かせるくらいにはなります。

別に電子回路に限ったことではありません。工場作業者の動線分析から、最適人員配置までを瞬時に計算してくれるソフトもあります。この作業には何人必要。時間は何秒かかる。全体の生産数は、何個。こういうことがパソコン上でできてしまいます。しかも、精度はかなり高いものです。

この進歩を前に、これまでそれで食ってきた人たちはどう見ているでしょうか。もちろん、企業によってはそのようなソフトの導入が進んでいないところもあるでしょう。加えて、そのようなソフトを使用することで個々人の技術レベルが下がるという懸念もあります。しかし、それらの議論はここでの本質ではありません。それは、いつの時代だって、複雑な計算をエクセルではなく、手で計算したい人はいるでしょう。それはそれで古き良き光景として残っていけば良い。しかし、便利なツールの流れが進むことは間違いありません。

これには、技術の高度化に伴い、一つの分野を完全に極めることができなくなったという背景があります。簡単な電子回路であれば、基礎から学んでいっても時間が経てば理解できるようになるかもしれません。しかし、今では多層基板は当然。しかも、開発期間も短縮されています。その中でなんとか製造業は新製品を作らねばならない。このニーズに答えるべく、便利なツールがいくつも誕生しているのです。

これは技術領域に留まりません。バイヤーをとりまく状況も同じです。サプライヤーは日に日に増えています。生産工法はどんどん多様化している。法律・税法を一旦覚えたかと思えば、次の日には改定されていることだってあります。グローバル調達元の国の情勢は変化し、加えて調達品に課される環境規制は訳が分からないくらい乱立しています。

こういう状況では、一人のバイヤーが完璧に必要知識を覚えるまで鍛錬する、ということの効果は悲観的にならざるをえません。極論ですが、知識は中途半端でも良い。その代わりに、必要なときに情報にアクセスできるような能力こそが求められているのです。これは、職業人として、かなり大きなパラダイムシフトといえます。これまでの知識や経験をどれだけ蓄積しているかを問われた時代から、いかに情報を集めることができるかを問われる時代に大変化しているということなのです。

とあるアメリカの小学校では、「電卓OK、インターネットOK、カンニングOK」という条件でテストが実施されています。これは、自分の頭の中にある知識などたかが知れていて、それよりも外部の情報をいかに速く集めることができるか、というものです。私はこれが人間の「知のかたち」が変化しつつある兆候としてしかとらえることができません。

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