2-(4)-2 これまでの常識④・・・コストが安いほど良いと思っている
・安さだけではなく
この経験が私に、色々と考えさせるチャンスをくれました。「無茶な目標を与えて、それを達成できなかったら下を批判するだけのトップなら殴ってやれ」という正論もあるでしょうが、それはいいとしましょう。
バイヤーの主業務の一つは、「安く買ってくること」です。これに私は異存ありません。しかも、最も分かりやすい尺度だとも思います。
しかし、です。これは調達・購買部門に限らず、あまりにも「安さ」だけが注目されているように思われてなりません。
開発購買という言葉があります。これは、調達・購買部門が、製品開発の初期段階から携わり、「買う」という側面からアイディアを注入し、最終製品の魅力度を向上させていこうという試みです。この必要性は認めつつ、開発購買の意義として、「安く製品を作る」ということだけに注力されている結果、数々の失敗作が誕生しています。安さを追求するあまりに、ロクでもない仕様の製品が出来上がったり、いくつかの箇所に手抜きが目立つ製品が出来上がったりしている例を私はいくつも見てきました。
最終製品の顧客にとっての魅力度を上げるとは、なにも価格だけではありません。製品を早く市場に投入することだって、立派な魅力です。品質の良い製品だったら、もっと喜ばれます。安さも大切ですが、「本当にお客にとって何が価値をもたらすのか」ということをもっともっと考えるべきなのです。
安さ、明確です。納期というのは、守れて当然。守れても評価されない。品質は、良くて当然。品質を確保しても評価されない。こういう状況だから、どうしてもバイヤーは自分の存在意義を「製品をとにかく、安くすること」ということに置きがちです。100円が90円になったら、次は90円を80円に。80円の次は75円に。
「机をぶったたいても、安くしてやる」という熱意は評価できなくもありませんし、「こんな余計な仕様を追加するな」と背景も分かっていないくせに設計者に詰め寄る無鉄砲さも微笑ましいと言えなくもありません。
それでもなお、私はバイヤーの仕事は価格だけではない、ということを言いたいのです。社内が「安く、安く」と言っているときに、抑制し、安さだけではない価値を提示することもバイヤーの仕事と言えます。サプライヤーが赤字で販売しても、こちらが儲かればそれで良いのか。そのうちに、サプライヤーたちは将来の開発費・設備費にまわす余剰金がなくなり、いつしか競争力を弱体させていくでしょう。それは、まさに自分たちの弱体化を意味します。
単に安くするだけ、しかも机を叩いて交渉するだけであれば能がありません。調達・購買部門が、そんなメンタリティであり続けているうちに、最も大切な「市場から価値を見つけてくる」という業務が失念されています。
自社の最終製品にとって、その場面で必要な側面は一体何か。価格か品質か。あるいは早く市場投入することか、あるいはどこも製品化していない価値なのか。そういったことを考え、意識して社内に啓蒙していかねばならないのです。