3-2.サプライヤ評価 ~あなたのサプライヤになりたい 「新しい購買のサプライヤ選定革命」~
しかし、納入した後のトラブルが発生した。そのサプライヤは「最初の何回目の質問までは何円です。それ以降の質問からは何円です」なんてことを急に設定してきたのだ。しかもサプライヤを選定してしまったら、そういう通常の細かなトラブルまで購買部が察知できない。そして設計者たちの堪忍袋の緒が切れたところで、バイヤーにクレームの嵐が来たというわけだ。
ソフト開発にはトラブルがつきものだ。しかも、それはソフト側のトラブルもあるし、使用者側の環境の問題もあって、一概にどちらの責任ともいえない場合が多い。仕方なく、設計者は質問の電話とメールをサプライヤにするしかない。そしたら、奴らは冷酷にも、書面の一番端の極小文字で書かれた文面を見せ、「当然の主張」をしてくるのだった。「はい、それではこの質問の返信のために、どこどこにいくら振り込んでください」と。設計者が、そんな質問ぐらい答えろよ、といっても「契約書に書かれていることを言っているまでです」というばかりで受け付けない。とんでもないサプライヤと契約をしてしまった、ということなったのだ。
いつから、バイヤーは表面のコストだけを見るようになったのだろうか。そして、いつから、設計のしやすさやアフターサービスまでを無視して、自分のわかる領域だけで自己満足の世界に浸るようになったのだろうか?それは、もちろんバイヤーの表面上の評価が、「いくら安く買えるか」にフォーカスしているからにほかならない。多少設計がしにくかったり、多少技術的に劣っていても、バイヤーはそういうことを気にすることができないから、どうしても表面に出てくる見積りコストというものだけを使って査定をしがちだ。
表面上のコスト以外を無視し、いや、考えもしないからこそ、全社的なコスト削減につながらないのだ。表面上のコストしか考慮しないバイヤーは、あるものをたかだか10円安く買うだけで、それ以外の要素で1万円高くなる可能性など思いもつかない。しかも、そうやって表面的なコストだけ下げているバイヤーの評価が良かったりするから面白い。どんなに設計者に評価され、品質の良いものを買ってきたとしても、多くの場合、それはそのバイヤーの個人的成績にはならないのだ。
だから今日もバイヤーは表面のコストだけを見て良いサプライヤか悪いサプライヤかを決定し、少しでも安く出してくれる。サプライヤは探しに奔走する。あるいは、馴れ合いで、そこそこのコストを出してくれる付き合いの深いサプライヤに依存してしまう。これでは、購買部門の業務が「タコツボ化した」暗黒大陸、といわれても仕方がない。いや、私はサプライヤを攻める気はない。どんなに極小文字であっても、もしその内容が契約書に書かれていたのだとしたら、書面に書かれた内容は正であり、あくまでその正しさにはかわりがない。
むしろ、そういう条件を見抜けなかった、あるいは分かっていながら、黙認してしまったバイヤーが悪いのである。契約書を見もしなかったとしたら、それはプロフェッショナルの最低条件すらクリアしていないということになる。設計者が普段気にもしない契約業務にこそ、バイヤーは注力して自己の存在価値を発揮するときなのだ。