アップルとインテルが引き起こす調達改革

先日、某有名企業の役員の方から話を聞きました。その企業では技能実習生をアジアから迎え入れています。技能実習生の送り元として有名なのは、ベトナムやカンボジアなどです。そういった国々から若手を引き受け、3年(最大5年)ほど働いてもらうのが技能実習生制度です。

日本人作業者よりも真面目だと評判ですし、なによりも日本人作業者の不足を補うことができます。ほんとうは良いことずくめのはずでした。しかし、その某有名企業の役員の方が話を続けます。「実は客先から問題視されるようになった」と。どういうことでしょうか。客先からすると、その役員の方が属するサプライヤが技能実習生制度をもっていること自体、労働者への「強制労働」とみなすようになったというのです。

ベトナムやカンボジアの技能実習生制度では、労働者個人が現地のブローカーや日本語教育機関に支払う費用は約100万円です。その100万円を払えば、日本で働く場を提供してもらえます。しかし、その100万円は不当に「支払わされているもの」であり、強制労働にあたるというのです。

もっとズバリ書くと、強制労働にあたると指摘している企業はインテルとアップルと、あと数社です。彼らは、サプライヤにたいして、技能実習生を工場で使用している場合は、その100万円をサプライヤに肩代わりするように求めています。ねんのために書いておきますが、私はインテルとアップルが悪者だという意味では述べていません。事実として、その2社は技能実習生制度が強制労働にあたると考えている、ということだけです。

さらに書いておくと、アップルは移民労働者が負債を背負って働くのは強制労働にあたると考えています。一人100万円にのぼる技能実習生の負担をサプライヤに肩代わりさせています。2008年以来、アップルはその肩代わりをサプライヤに依頼しており、実に約33億5000万円が払い戻されています(2018年時点)。

これはどのような考えに基づいているのでしょうか。

アメリカで生まれたSA8000というCSR規定に基づいています。これはアメリカのNGOなどが中心となって規定した国際認証です。そのなかで、強制労働の禁止が定められており、「囚人労働や奴隷労働を含む強制労働の禁止。預託金や身元証明の提出を求めることの禁止」とされています。だから、技能実習生制度で労働者が支払う100万円が預託金にあたるというわけです。サプライチェーンのすべてにおいて、透明性とクリーンさを求めるアップルからすれば当然に帰結というわけです。

繰り返しですが、私はインテルとアップルが悪者だという意味では述べていません。彼らの考えからは、そう結論づく、というだけです。

話を、某有名企業の役員の方との会話に戻します。私は「状況は知っています。大変なことになりそうです」と伝えました。つまり、日本の国内法を遵守し、ビジネスを行っていても(技能実習生制度により労働者を集める行為は不法ではありません)、それを超越した視点から是正勧告がやってくるのです。

どうすればいいのでしょうか。答えはありません。ただ、いえるのは、息が詰まるほど、調達業務に透明性とクリーンさを求められる時代が到来するということです。もっとも「日本の法律うんぬんではなく、企業としての倫理性が求められる時代になった」ということでしょう。私は技能実習生制度について、すくなくとも、現行法を守っていれば避難される行為とは思いません。もともと国が進めてきた制度ですからね。

ただ、それを超えて、客先や世論がどういおうとも、胸を張っていられるかが重要なんだと思うのです。すくなくとも、私たちは、どう判断するのであれ、サプライヤが技能実習生を使用しているか、確認する時代に入ったということでしょう。

ああ、ただ逆にいえば、企業経営において調達・購買部門が活躍すべき、そして意見をいうべき余地は大きそうですね。(坂口孝則)

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